不動産から可動産へ──「移動」の進化が切り開く未来

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現代人は「マルチタスク症候群」

先日、とある先輩方とキャンプに行った時のことです。焚き火を囲みながら話していると、リーダー格の先輩が「実は、運転が大嫌い」と告白を始めたのです。その人は海や山を愛し、仲間とワイワイやるのが好きなタイプ。スポーツ万能で、決して運転が下手なわけでもない。あまりにもイメージとのギャップに驚き理由を訪ねたところ「運転はシングルタスクだから嫌い」という。

運転していると音楽やラジオを聴くことぐらいで他にやることがない。今回は仕方なく車を運転してきた、と。でも、シングルタスクは嫌だったので、ユーチューブで「すべらない話」を聞いて、芸人たちの話術やプレゼンテーションテクニックを盗みながらキャンプ場まで来た、というのだ。

その話を聞きながら「マルチタスク症候群」という言葉が浮かんだ。これは完全にスマホの影響だと思う。僕らは、知らず知らずのうちにマルチタスク化している。音楽を聴きながらスマホを開き、仕事のメールを書き、SNSをチェックし、ゲームに没入し、映画やドラマを楽しんでいる。

下手したら、その前にはPCやテレビがある状態で、さらに下手したら、移動中の飛行機や電車で。あらゆるスキマ時間、ちょっとした空き時間、なんなら会議中だって(これは勘弁してほしいのだが)僕らは、空気を吸うように別の何かの情報に触れ、マルチタスキングな生活をしている。良くも悪くも、シングルタスクが「なんとなく勿体無い」と感じる身体になってしまったのだ。

「可動産へ」の説得力は増している

そんな体質改善(改悪?)の中、「不動産は可動産へ」の説得力は増しているように思う。家の中でじっと動かないでテレビを見たり映画を見たり、仕事をすることに若干のストレスを感じてしまうことはないだろうか? 逆に、移動中の飛行機や新幹線で、仕事をしたり映画を見たりすると、なんとなく得をしたような妙な達成感を感じることはないだろうか? 

「〇〇〇しながら、×××すること」に、人間は慣れすぎて脳が快感を感じている(気がする)。脳から出る快感物質は非常に手強いので、もはやシングルタスクな生活には、そう簡単に戻れないんじゃないだろうか、とも思ってしまう。

「ノマド生活」「移住しながら働く」「Workation」「モビリティカンパニー」など、移動を絡めた話題がなんとも溢れている時代だ。インターネットが出現し、家にいながらなんでも情報が手に入るようになったにも関わらず、逆に、移動の時代である。僕らは人類有史以来の「人類大モビリティ時代」を迎えているのかもしれない。

この原稿も鎌倉から新橋へ向かう横須賀線の中、移動しながら書かせていただいた。なんだか得をしたような気分だ。

文=奥野圭亮

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