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2019.09.16 11:00

エシカルの本質を凝縮。「シチズン エル」成功の秘密とエバンジェリストたちの挑戦

今や地球環境に関わる問題がニュースにならない日はない。プラスチックストローの例を出すまでもなく、国家や企業、個々人までもが倫理的な消費に意識を向けることは、もはやあたりまえの世の中になった。多くのブランドが大量消費一辺倒のモノづくりを見直し始めた中、時計の分野でいち早くエシカルに着目していた日本の企業があった。シチズンである。

今回、話を聞くことができたのはレディースウオッチブランド「シチズン エル(CITIZEN L)」を立ち上げ、成長させてきた女性たち。初代の誕生に関わり、企画やデザインを担当した二人が再びブランドのあり方と向き合うことになったとき、強く惹きつけられたのがエシカルの潮流だったという。

先進的なコンセプトを生み出すチャレンジングな試みと、その背景にあるきっかけや苦悩。エシカルに着目した理由や、そこにこめられた思いとは──。


内側からも輝きを放つ時計。これまでにないコンセプトの背景

インタビューが行われたのは、表参道にあるシチズンの瀟洒なデザインスタジオ。そこに「シチズン エル」開発メンバーが待っていた。商品開発部の前田花菜と、デザイン部チーフデザインマネージャーの吉田麻里恵だ。

エシカルを前面に打ち出し「シチズン エル」のリブランドを果たしたのは2016年のこと。ジュエリーのようなデザインのグローバルレディスウォッチブランドとして2012年から世界展開していたが、時計業界としては異例のエシカルなモノづくりをコンセプトに加え、シチズンならではの技術力や伝統工芸を融合させて、ブランドを再構築したのだ。

エシカルをコンセプトとして掲げたことで、「シチズン エル」は時計業界でも際立って先進的な存在となった。シチズンが得意とする「光発電エコ・ドライブ」は、光を無限のエネルギー源として動き続けるのだが、これを搭載するのはもちろんのこと、さらなる環境への配慮へと踏み込んだのだ。とはいえブランド初期は、このようなアイデアはなかった。

「自然こそが世界共通の美、ということがスタート時点でのコンセプトでした。ですが、自然の美とは文化や価値観の相違でさまざまな解釈があり、世界を市場にした場合に矛盾が起きたんです。そこであらためてコンセプトを練り直しているときに、社内のCSR担当者と話す機会があって、それが大きな発想の転換点になりました」(前田)



CSRとは企業の社会的責任を指す言葉。その意味するところは環境への配慮や社会貢献だけでなく、消費者への適切な対応など、幅広い。そうしたCSRの意識を取り込むことで「シチズン エル」をより明確なコンセプトで生まれ変わらせる道すじが拓けたのだという。

「美しく生きる女性たちは外見の華やぎだけでなく、内側からも輝きを放っていますよね。それなら時計も内側の美しさが備わることで、新しく生まれ変われると思ったんです。その後、さらにさまざまな出会いに恵まれて、エシカルの意義をより深く知っていくことになりました」(前田)

この方面にも詳しいブランドアドバイザーとして、ファッションジャーナリストの生駒芳子を迎え、リブランディングは加速的に進んでいった。



これらが2016年に再ローンチした「シチズン エル」の“5つのコミットメント”だ。自然の美という主観から、より具体性のある客観へと移行したことで、これまでにない魅力がブランドに備わった。製品成分表の公開とは、時計を構成する主要成分を化学物質まで明らかにし、その含有量を公開すること。DRCコンフリクトフリーは、テロやゲリラの資金源になった鉱物を使わないこと。CO2排出量の公開は、時計業界初の偉業だ。


薄くコンパクトになり、読みやすくなった時計の取扱説明書。従来は冊子のような厚みがあった。


コルクのパッケージは、ジュエリーポーチなどとして再利用できるようにデザインされている。

さらにデザインアドバイザーとして建築家の藤本壮介を迎え、コンセプチュアルな「シチズン エル アンビリュナ」を発表。月明かりのように輝くサファイアガラスや漆を大胆に使ったデザインと相まって、国内外のメディアから大きく取り上げられ、成功を収めた。しかし、ローンチまでには幾多の障壁を乗り越えなければならなかったという。壁は、社内にもあった。


漆をモチーフにした「シチズン エル アンビリュナ」デビューモデル(生産終了)


「シチズン エル アンビリュナ」最新モデル「EM0643-92X」あえて少し曇らせた月明りサファイアガラスがアンビリュナの共通デザイン。時のうつろいを表現している。

「捨てるものを減らすという意味で、流行に左右されずに長く使えるデザインを目指したんですが、長く使えること=壊れないように頑丈さを優先する、とデザイン的には女性らしい軽やかさが失われてしまいがちです。特にシチズンは技術的な検査体制が非常に厳しく、飽きのこないジュエリーのような軽やかなタッチを出すにはかなりの試行錯誤が必要でした」(吉田)



「それに、エシカルという言葉が当時はまだ浸透していなかったこともあり、開発チームの目指していることを社内的に理解してもらうのにとても時間がかかってしまって……。でも、時計づくりには多くの部署が関わりますから、エバンジェリストと化して地固めに走り回りました。社内で反対の声が上がるたびに、チームはむしろ熱くなっていったんです」(前田)

世界を変えるきっかけを呼びかける

未来をよりよいものにしようというメッセージを強く打ち出した結果、新生「シチズン エル」は女性たちの共感を呼び、指名買いにつながった。ただ買っては捨てるだけではなく、それを少し見直して“ソーシャルグッド”なライフスタイルを楽しむという気運が、新たなコンセプトにしっかりと合致したのだ。

この思いきった方針転換で、「シチズン エル」は飛躍的な伸びを見せることになった。2018年度の国内売上は、2016年度より60%増加したのである。さらに2019年はSDGs(国際社会が共通して目指す持続可能な開発目標)へのアプローチもスタート。

「この春から“New Time, New Me”と題したキャンペーンを行っています。身の回りの小さな選択で、世界がほんの少し変わるきっかけを作ろう、できることからやっていこうというアクションです。今はシチズン全体にこうしたエシカルコンシャスな考えが広がっていく過程にあり、開発に関わったものとしては誇らしい気持ちでいっぱいです」(前田)



“Brave is Beautiful 〜美しさは勇気〜”をコミュニケーションコンセプトとする「シチズン エル」の最新コレクションは、ジュエリーのようなデザインとなっている。“未来へと光り輝く自分だけの道”をイメージしたという、2本のダイヤモンドのラインが目を引く。

「この新作の直線的なフォルムは、自ら見つけた道をレッドカーペットを歩くように生きていくというストーリーを表しています。自分らしく生きる女性にふさわしいように、ダイヤモンドの存在感を強調し、サファイアガラスの上にも大きめのダイヤモンドを配置しました。成熟した女性に似合う、洗練された時計ができあがったと思っています」(吉田)


シャープな印象の角形モデル。計24石のダイヤモンドをあしらい、リュクス感がただよう。「シチズン エル」光発電エコ・ドライブ搭載。クォーツ。ケースサイズ29.4×22.4mm。ステンレススティール、ダイヤモンド、白蝶貝。サテン風合成皮革ストラップ。5気圧防水。85,000円(税抜)。CO2排出量 6.7KG

「EG7068-16D」詳しくはこちら



多彩なコーディネイトが楽しめる、モダンかつクリーンな顔立ち。肌にしなやかにフィットするブレスレットの仕立ても魅力。「シチズン エル」光発電エコ・ドライブ搭載。クォーツ。ケースサイズ28.2×21.5mm。ステンレススティール、白蝶貝。5気圧防水。35,000円(税抜))CO2排出量 7.9KG

「EW5559-89D」詳しくはこちら


女性たちが先頭に立ち、女性らしい視点でモノづくりを牽引したことで、ブランドに新たな価値が加わり、また企業全体も変わろうとしている。止めようもなく進んでいくエシカルの潮流に乗って「シチズン エル」は、女性たちと地球を美しく変えていく時計として、これからも広く認知されていくだろう。

シチズン エル
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前田花菜(まえだ かな)◎ブランド事業部で「シチズン エル」の立ち上げに関わり、2016年のリングブランディングでも中心的人物として活躍。現在も商品開発部で「シチズン エル」の企画を担当し、SDGsキャンペーンなどにも携わる。子供時代にガールスカウトの経験があったことから、自然には常に心を寄せている。


吉田麻里恵(よしだ まりえ)◎商品開発本部 デザイン部 チーフデザインマネージャー。プロパーからユニークピースまで幅広く手がけ、チームの一員として関わった「シチズン エル アンビリュナ」は2016年度のグッドデザイン賞を受賞。時の流れをロマンとしてとらえる、夢想家的な一面も。

Promoted by シチズン text by Keiko Homma Photo by Eiichi Okuyama