ビジネス感覚を掴んできて売り上げは増えてきたものの、事業を続けようか、一度就職をしてから再び独立しようかと悩んでいた。そんな中、メンターのひとり、障がい者の就職支援サービスを展開するゼネラルパートナーズ代表取締役社長の進藤均に「絶対やり続けたほうがいい」と言われた。
進藤の事業は当初周りに「絶対うまくいかない」と言われたが、利用者の家族から「転職が決まらなかったとしても、あなたの会社があることだけで希望になります」と言われ、事業を続ける力にしていた。ほかにも数人に相談すると、皆から「絶対やった方が良い。何かあったら面倒見てあげるよ」と言われた。
星は「もしやらなかったら人生で後悔する。儲からなくても絶対続ける」と腹をくくると、3月30日に内定先の企業に電話し、内定を辞退した。
新たな依頼も舞い込んできた。全国に飲食チェーンを展開する一部上場企業から、「社内に1人でもLGBTの当事者がいるなら会社として何とかしたい」と相談され、18年半ばからコンサルタントとして協力することに。それから1年間で社員対象にほぼ全店舗でスタッフ研修を行い、福利厚生として当事者の性別変更や同性カップルの婚姻関係を認めた。現場レベルでLGBTへの理解が浸透していくと、当事者から「勇気をもらった」と声が上がり、自ら制度を変えようとする動きもあった。
一般的に大手企業が組織的に変化するには、時間がかかる。だが、星は「人への投資」に注力することで、大きな変革の流れを作った。
「飲食業界は雇用人数が多いので、店舗を置く地方にも一気にその制度が波及すると考えています。一社変わるだけで、全国の雇用先に広がり、社会的なインパクトも大きい」
LGBTに留まらない問題解決を
星が掲げるミッションは「すべてのLGBTが自分らしく働ける社会の創造」だが、自らの事業でLGBTだけではなく他の課題も解決できると信じている。
「LGBTの課題に取り組めば、障害、宗教、国籍といった多様な範囲に問題解決が広げられるのではないかと思っています。人同士が違いを認め合うという考え方が根付いていったらいいですよね」
世界中で自分らしく働き、生きることができる世界を作りたいと野心を抱く。こちらにまっすぐな視線を向けた星は「これからはビジネスを世界に広げていきます」と、目標を語った。
「いま、グローバルでも勝てるようなテクノロジーのスキームを作っています。市場選定をうまくすれば、グローバルでも通用するかなと思っています。まずは国内での事業を多角化して、日本での収益エンジンを活かして、日本と似ているような状況にある国で展開したいなと思っています」
そして最後に起業家としてこれからどう在りたいか聞くと、少し間を置き、力強くこう答えた。「綺麗事で終わらせたくない。経営者としてこの事業を成功させ、自分ではない他の誰かが作り上げた『らしさ』を求められる文化を破壊したい。あらゆる人を生きづらさから解放し、社会があるべき姿に近づけられるようにしたい」
<受賞者たちへの共通質問>
今後3年で成し遂げたいことは?
ほし・けんと◎1993年生まれ。立教大学進学後、Wスクールで東京大学大学院在学中に「JobRainbow」を設立。2018年フォーブス「30 UNDER 30 ASIA」に選出。
星をはじめとした、個性あふれる「30 UNDER 30 JAPAN 2019」の受賞者の一覧はこちらから。若き才能の躍動を見逃すな。