立教大学に進学し、LGBTサークルの代表になった大学2年生のある日、就職活動中のトランスジェンダーの先輩からこんな悩みを聞いた。
「履歴書の男女欄どちらに〇をつけたらいいかわからないし、スーツも男女用どちらを着ればいいのかわからない……」
この先輩以外にも、面接の途中で帰らされたり、心無い言葉を言われたりするLGBTの先輩もいた。体験談を聞いて就職活動に恐怖を感じた星は、企業の内部や制度を知るため、大学3年になると複数の会社でインターンを始めた。
元リクルート・麻生要一の下で新規事業開発のインターンに参加していると、麻生にこう言われた。「お金になることを探すのではなく、社会の『不』を探そう」。星は「自分が持っている課題こそ、『社会の不』ではないのか」と思った。
インターンのチームには、いろいろなスキルを持った仲間がいた。星はインターン生に、自分の先輩の就職活動の経験を話すと、「その問題を解決する事業をやろう」と言われ、当事者130人にヒアリングした結果、LGBT当事者向けの転職・就活サイトにニーズを感じた。結局、事業化はされなかったが、いつか自分で実現したいと思うようになった。
「ビジネスとして成功しないのでは」
大学4年生で東京大学大学院にも通い始め、ジェンダーやセクシュアリティにメディアが与える影響を研究した。このダブルスクール中にビジネスコンテスト「TRIGGER」に参加すると、ファイナルまで進み、元マッキンゼーの赤羽雄二をメンターに迎え、LGBTの就活支援のビジネスモデルを磨いた。
2015年の10月にあったファイナルでは、「ニーズがあるかわからない」「ビジネスとしては成功しないのでは」と賛否両論あったが、見事優勝して賞金100万円を獲得し、16年3月にLGBTを取り巻く環境に関する口コミなど企業情報を掲載するサイト「JobRainbow」をローンチした。同時期に、もともと1年間のアメリカ留学を決めていた星は、事業をリモートワークで進行した。
テレビでJobRainbowが取り上げられたことをきっかけに、ある企業から「求人情報を載せてくれないか」と相談が舞い込こんだ。その企業の求人を1件サイトに載せてみると、1カ月で数十人の応募があった。
「当事者はLGBTであることがマイナスにならない企業に就職したいと思っているし、色眼鏡で見ずにジェンダー関係なく採用しているLGBTフレンドリー企業もいる。これってお互いのソリューションがすごくフィットしていますよね。企業データベースをもとに集客しつつ、企業側に求人を出してもらい、求職者が応募する。この一件の成功事例から、求職者側から利用料をいただくのではなく、企業側から広告費用をいただくようにした求人サイトを作りました」
しかしサイト利用者は1日10人ほどで、売上も年間で数十万円と、かなり追い込まれていった。起業2年目は「これではいけない」と、星は帰国後の2017年5月、LGBTの祭典「東京レインボープライド」に出展していたクラウド会計ソフトを運営する「freee」に「うちのサイトに求人を載せてくれませんか」と直談判。freeeの求人を掲載すると、20人ほどが、星が運営するJobRainbowを通じて就職した。