「福祉をカルチャー化する」異彩を見出し、ファンを生む双子の実験 #30UNDER30

右から松田崇弥、文登


彼らが販売しているネクタイは、アーティストが描く細かな模様を織りによって忠実に再現している。一般のネクタイに比べて製造に時間をかけたその丁寧な工程であることから、販売価格は2万円以上。当初は周囲から「高価格すぎるのではないか」と疑問視されることが多かった。

しかし、本人たちは「業界内の評価などは一旦考慮せずに、福祉のイメージ改革をしよう」とクオリティにこだわるプロダクトづくりを徹底。すると次第に大きな反響を受け始める。

崇弥は当時についてこう振り返る。「MUKUでの1年間の活動が自分の中でとても大きかったです。幼い頃から抱いていた『福祉の仕事に関わりたい』という想いを実現することができてとても嬉しかった。この活動期間をきっかけに、法人化することを決めました」

2018年7月に株式会社ヘラルボニーを設立。崇弥は同年6月に、文登は12月にそれまで勤めていた会社を退職し、事業に専念している。


MUKU×ファッションブランド「TOMORROWLAND」でコラボレーションしたハンカチ=本人提供

19年夏には、日本の福祉事業所を統括する全国組織「きょうされん」と岩手県の「るんびにい美術館」とタッグを組み、ファッションブランド「TOMORROWLAND」とコラボレーションしたハンカチ(2700円)を発売。ZOZOTOWNでは6種すべての柄がすぐに完売した。売り上げの一部はアーティストに還元される。

さらに、建設現場を囲む仮囲いに知的障害のあるアーティストの作品を掲示する「全日本仮囲いアートプロジェクト」や、パナソニックなど企業にアート作品を提供する事業など、企業や自治体と協力して福祉 × アートの領域を拡張させている。

崇弥は、株式会社という形態にしたことへのこだわりを、「障害のあるアーティストの方たちが描く作品にしっかりお金がついて、世界中から評価される。障害のある方たちが賃金を得て社会で活躍できるような仕組みの構築を営利企業としてチャレンジしていきたいです」と語る。

「障害」が絵筆に変わる

彼らのアート作品には、どんな魅力があるのか。崇弥は、こう解く。

「知的障害のある人は、決まった時間に同じことをするルーティーンを持って日々を過ごす傾向が強い。その生活スタイルがアートに投影され、繰り返しのデザインが用いられていたりします。『障害』が絵筆に変わっているんですね。そこに彼らのアートの良さがあると思います」

今後は、インテリア建材などにも事業を展開する予定だ。アート作品を落とし込むプロダクトの幅はこれからさらに広がっていく。文登は「多くの方が、障害のある方たちと関わりを持つための接点をたくさん作っていきたいですね」と語る。

ヘラルボニーが掲げるミッションは「異彩を、放て」。予定調和を崩し、バイアスを壊す、純粋無垢な価値観。それぞれの特性を尊重し、楽しみながら社会実験に取り組むのだ。

文登は「知的障害があること、普通ではないということは可能性だと思うんです。僕らはそうした彼らの特性を『異彩』と定義して、全国各地に広げていく。そうして障害のある方たちに対する社会のイメージを変えていきたい。いずれは『障害』という言葉も変えていきたいですね」と意気込みを語った。

続けて崇弥はこう言って笑った。「怒涛の1年でしたが、これからもどんどん仕掛けていきますよ」

<受賞者たちへの共通質問>
今後3年で成し遂げたいことは?


 

まつだ・たかや◎1991年生まれ。双子の弟。小山薫堂率いるオレンジ・アンド・パートナーズを経て、ヘラルボニーを設立。代表取締役社長。クリエイティブ担当。

まつだ・ふみと◎1991年生まれ。双子の兄。大手ゼネコンで被災地再建に従事。その後、ヘラルボニー代表取締役副社長。マネージメント担当。

松田をはじめとした、個性あふれる「30 UNDER 30 JAPAN 2019」の受賞者の一覧はこちらから。若き才能の躍動を見逃すな。

文=宮本拓海 写真=ヤン・ブース

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