双子が手掛ける福祉実験ユニット「ヘラルボニー」は創業から1年を待たずして、10を超える福祉施設とライセンス契約を結び、障害のあるアーティストによるアート作品1000点以上を預かり、企業や自治体に向けて提案可能だ。
彼らのアート作品がデザインに落とし込まれた商品やプロジェクトが、福祉の領域を超えてファンの心を掴んでいるのはなぜだろうか。
インタビューをした日は、双子の松田崇弥、文登にとって特別な日だった。へラルボニー設立から1周年の記念パーティーを夜に控え、都内で1日限定のポップアップストアが開かれていた。
会場には、赤や黄、青など色鮮やかなハンカチや傘やネクタイなどが並ぶ。それらは全て、知的障害のあるアーティストたちが手掛けた作品がデザインに落とし込まれたプロダクトだ。
松田兄弟は自社のネクタイを身に着け、正装に身を包み、笑顔で迎えてくれた。「ヘラルボニー」を運営する二人は、自分たちの関係性を「家族、双子でありながら、親友でもあり、ビジネスパートナーでもある」と話す。この1年で事業を広げ、着実にファンを増やし、彼らの元には日々、新規案件の相談が舞い込む。
彼らには、自閉症の4歳上の兄・翔太がいる。幼い頃から、兄について「かわいそう」だとか「兄の分まで頑張るんだぞ」などと周囲から言われてきた。「兄貴だって、普通に泣いたり笑ったりする人間なのに」と、違和感を感じていた2人にとって、福祉の仕事を目指したのは自然な流れだった。
「文登は小学生の頃に『障害者だって同じ人間なんだ』というテーマで兄についての作文を書いていたこともあるんです。自分たちと社会との認識にずれを感じ、子どもながらにそのずれを解消したいという想いを抱いていました」と崇弥は話す。
しかし、中学生になると思春期とともにその想いに変化が表れる。友人からきつい言葉を受けたり兄を真似る仕草をされたりするうちに、周囲に同調するようになった。さらに、兄と双子の関係性を一変させる出来事が起こる。