なぜ、石井はこれまで女性が触れづらかった話題に斬り込んでいくのか。
性別ではなく“私”を生きる
白地に赤いドット柄が目を引くワンピースに、ふわりとウェーブがかったヘアスタイルで、石井リナは現れた。
まっすぐにこちらを見て「初めまして」と挨拶する目には、赤みがかったまつ毛がふさふさと生えている。ファッション、ヘア、メイクのどれを取っても洗練されていて、なおかつ確実に自分に似合うものを選び、つま先から指先のネイル、髪の毛一本一本まで、独自のスタイルが創り上げられているようだった。
石井に初めて会った瞬間、思わず息をのんで見入ってしまったのは、同じ女性として彼女のクールなセンスに憧れを抱いたからだ。その装いは、女性向けメディアで使われる「モテ」や「愛され」というキーワードにとらわれていない。純粋に好きなファッションを楽しんでいるようで、選んだ洋服やアクセサリーの一つ一つが、石井の持つ華やかな雰囲気をよりいっそう引き立たせていた。
ワンピースをどこで買ったのか訊ねると、「大好きな海外ブランドのもの」だと言いながら、フォローしているインスタグラムのブランドアカウントを見せてくれた。
「ファッション誌の編集者になりたかったんです。中学、高校では毎月何冊も雑誌を買って友達と回し読みしていたし、大学ではファッション誌のラボプロジェクトに参加していました」という。その言葉に納得するとともに、不思議に思った。
なぜ石井は今、ファッションという分野に留まらず、多様なテーマで女性たちに新しい価値観を提案しているのだろうか。
2018年3月、石井は女性向けエンパワーメントメディア「BLAST(ブラスト)」を立ち上げた。BLASTはインスタグラムとツイッターを中心に動画を配信する分散型メディアで、ファッションやライフスタイルのトレンド情報はもちろん、シリアスな社会問題からキャリア、性とセックスまで、さまざまなテーマを扱っている。
BLASTのインスタグラムとツイッターのトップページには、「自分らしく生きるために、私たちはもっと知りたい」と記されている。そのメッセージを読み解くには、石井の生い立ちに触れておかなければならない。
石井は共働きの両親と妹の4人家族で、父親がフレックスな働き方をしながら家事の8割をこなす家庭で育った。毎朝見送ってくれるのも、何かあったときに相談するのも父親。中学・高校の6年間は男女別学の学校に通い、女子ばかりの環境だったため、思春期に異性の目線を気にしたことはなかったという。