ビジネス

2019.09.06 13:00

カタツムリの研究から始まった、孤独を救う「分身ロボット」誕生秘話 #30UNDER30

オリィ研究所の共同創業者 結城明姫

オリィ研究所の共同創業者・結城明姫は、「世界を変える30歳未満」として日本を代表するビジョンや才能の持ち主を30人選出する「30 UNDER 30 JAPAN 2019」のサイエンス部門で選出された。



結城が共同創業者でCOOを務めるオリィ研究所は、人類から「孤独」をなくすことを目的としている。

孤独をなくす? どうやって? 誰しもそう思うだろう。結城が「孤独」という問題に取り組む理由に迫ってみよう。

オリィ研究所が開発したのは分身ロボット「OriHime(オリヒメ)」である。メディアでも度々紹介されているからご存知の方も少なくないはず。結城が、会議室の机に置いた小型のOriHimeを見ながら、こんな話をする。

「利用者は、OriHimeを遠隔操作するときの感覚を、『憑依する』『パイロットとして中に入る』と形容してくれます」

「憑依する」感覚になるのは、深い没入感が得られるからで、能面のような顔にヒントがある。まず、OriHimeの仕組みはこうだ。

OriHimeは「分身」型のロボットである。例えば、あなたが病院に入院していると考えてみてほしい。見えるのは窓の外の風景のみ。車椅子で院内を移動することはできるが、自由自在に動くことはできない。そこで、「分身」であるOriHimeを「行きたい場所」に置いてもらう。

学校の教室、あるいは旅行者が外国に行く時に小型のOriHimeをリュックに入れて持っていってもいい。OriHimeにはカメラとマイク、スピーカーが搭載されており、インターネットと接続することで、離れた場所にいる人とコミュニケーションができる。

憑依の感覚について、結城はこう言う。

「タブレットのような平面のモニターだと、他の場所を繋ぐための『窓』として受け取られます。そのため、平面モニターに操作者の顔を映すロボットでは、操作者自身が人の輪に入っていくことが難しかったんです。でも三次元の顔があって物体が目の前で動いていると、周りの人が触ったり気軽に声をかけたり、その場にいるような感覚でコミュニケーションができる。現段階ではいまの形が最も人の輪に入りやすく、憑依する感覚を実現してくれます」

つまり、「コミュニケーションの距離感」を、能面のような顔のロボットにすることで縮めることができたのだ。学校の教室を見回しながら、友人が近寄ってきて、表情を近くで見ることができ、あたかも「その場にいる」ような感覚を体験できる。
次ページ > 「身近」を生み出すロボット

文=田中一成 写真=ヤン・ブース

タグ:

連載

30 UNDER 30 2019

ForbesBrandVoice

人気記事