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ALS患者の存在意義を生む

07年、吉藤の発案から、人の孤独を解消するロボット『OriHime』の原型となるアイデアが生まれる。

かつて不登校の経験をもつ吉藤は、高校時代にはジャイロセンサによって傾きを感知し補正する車椅子を開発した異才だ。不登校時代に「人との関わりによって救われた」という原体験をもつ吉藤と、闘病時に孤独を味わった経験のある結城は意気投合。「孤独の解消」という理念に共感した。

発案から3年後の10年にOriHimeの初号機が完成。創業メンバーはみな一般企業での勤務経験もなく、ビジネスについてはド素人。当初はNPO化してやっていくのはどうかという議論もあった。しかし、翌年の11年にビジネスの方向に舵を切ることを選択した。

「OriHimeのサービスを持続的に、かつより多くの方々に提供するには、組織化してビジネスとして続けていくことが必要だと考えました」

ビジネスとして持続性を持たせるために、吉藤と結城の最適な役割分担は自然と決まった。「エンジニアというより、発明家です」という吉藤がアイデアを「発散」し、結城は現実的にどうすれば形になるかを考える。彼女の役割は、ビジネスサイドと接点をつくる役割だ。

当初ビジネスの経験がなかった創業者たちは、経験ある新たな社員、理想に共感してくれる協力者からフィードバックを募ることにより、資金難を乗り越え、OriHimeの認知を着々と広めた。

「利用者さんの忘れられない話があるんです」と結城は言う。

あるALS(筋萎縮性側索硬化症)患者がいた。妻と2人の小学生の娘がいるが、入院生活で家に帰ることができず、病気の進行によって体が自由に動かくなる。家族へ迷惑をかけてばかりいると感じる彼は「生き続けるかどうか」非常に悩んでいた。そんなときOriHimeと出会い、希望を見出したという。

「『やっぱり、父親のいない子ども達にしたくない』と強く思うようになったとおっしゃっていました。OriHimeを家に置いて利用することで、子ども達とのおままごと遊びを一緒にできたり、勉強を教えられたりできるんだ、と嬉しそうに言ってくれて。そして『家庭の中に、父親としての価値がちゃんと存在するんだと思えるようになった』と言ってくださいました。本当に感動したことを覚えています」

OriHimeは孤独を解消するだけでなく、利用者の存在意義にも光を当てる。そして今後、OriHimeをはじめとしたコミュニケーションテクノロジーを海外にも広げたいと語る。

「身体的、精神的、距離的障害の問題は人類共通の悩みです。本人の意思と関係なく社会参加ができないために、孤独を感じている人は世界中にいます。OriHimeは、彼ら、彼女らが“望む場”に入れるテクノロジーであり続けたいです」

<受賞者たちへの共通質問>
今後3年で成し遂げたいことは?



ゆうき・あき◎国際基督教大学教養学部卒業。高校時代に流体力学の研究を行い、2006年の高校生科学技術チャレンジで文部科学大臣賞、YKK特別賞をダブル受賞。インテル国際学生科学技術フェア(ISEF)出場を目前に結核に倒れ長期入院を経験するが、翌年再出場しグランドアワード優秀賞に。12年、吉藤健太朗、椎葉嘉文とともにオリィ研究所を設立。

結城をはじめとした、個性あふれる「30 UNDER 30 JAPAN 2019」の受賞者の一覧はこちらから。若き才能の躍動を見逃すな。

文=田中一成 写真=ヤン・ブース

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