ビジネス

2019.08.29

相次ぐシェアオフィス事業への参入。なぜ鉄道会社が?

8月から利用可能になった東京駅の「STATION BOOTH」


東京メトロはキッズルーム併設

一方、都心のビジネス街を隈なく走る東京メトロ。同社も2018年6月から19年7月まで同様のブース型の「サテライトオフィスサービス」を溜池山王駅、北千住駅、池袋駅、市ヶ谷駅、新宿三丁目駅、後楽園駅に設置し実証実験を行った。

同社は、ワークブースだけではなく、キッズルーム併設ワークスペース「room EXPLACE」を門前仲町駅、東陽町駅近くに開設した。ワークスペース、個人ブース、会議室に託児スタッフが常駐するキッズルームでは、外国人スタッフによる英語絵本の読み聞かせやリトミックなどが実施されている。料金は、ワークスペースが30分400円、キッズルームが30分600円となっている。


キッズルーム併設ワークスペース「room EXPLACE」

「room EXPLACE」の発案段階から携わる企業価値創造部の桶田麻衣子は「発案当時、私ももうひとりの担当者も、子どもが幼く、仕事と育児の両立に苦労していました。仕事を頑張れば、育児が疎かになり、育児を頑張れば仕事が疎かになる。どうしても仕事と育児がトレードオフの関係になってしまう。

ちょうどテレワークなど新しい働き方が注目され、子どもの近くで働くことができる環境が整えば、そうした心配をすることなく仕事と子育てを両立できるのではないかと考えた」と発案の経緯を語る。

また、東西線の門前仲町駅、東陽町駅に開設したのにも意味がある。東西線は、日本一混雑する路線として知られ、なかでも東陽町駅の隣駅である木場駅から門前仲町駅間の混雑率は199%。

桶田は「東西線ではホームの拡張・延伸といった大規模な工事やオフピークキャンペーンの実施などハード・ソフト両面で輸送改善に努めているが、それを上回る勢いで沿線に住宅が増加している。鉄道事業以外からの、混雑緩和へのアプローチでもある」と両駅に開設した理由を説明する。

東陽町駅から見て千葉方面の江戸川区、西葛西駅など沿線の各駅には次々と大型マンションが建設されている。

キッズルームは併設していないが、JR東日本も秋を目処に東京駅構内にシェアオフィスタイプの「STATION DESK」を開業する予定だという。

鉄道事業者がシェアオフィス事業に参入する理由

JR東日本や東京メトロがシェアオフィス事業に参入するのは、人口減少により、鉄道事業での収入がこれ以上見込めない状況がある。

JR東日本の中島が「会社が成長するためには、鉄道事業以外の新しい事業で成長するかが一つのポイントになる」と話せば、東京メトロの桶田も「働き方が変わり、ウーバーなどさまざまな移動手段も登場している。メトロは鉄道事業売上が大きな比重を占め、鉄道の安全や質を担保するために、鉄道事業以外に収益になる事業を育てていく必要がある」と語る。JR東日本は、売上のうち鉄道事業が占めるのは7割、東京メトロは9割。

現状の課題についてJR東日本の中島は「あまりない」と前置きした上で、「空気環境は人によって感じ方が違う。臭いについても同様です。実はブースのなかにはリラックス効果があるとされるアロマを少し使用しています。誰にとっても快適な環境をつくることが現在の課題です。そういった課題を事業を走らなせながら解決し、都心を中心としながらも、新幹線の停車駅など地方にもSTATION WORKを拡大していきたい」と意気込む。

東京メトロの桶田は「稼働率を高めることが課題。子育て世帯が多く住む東京メトロ沿線に、『こどものそばで働く』という選択肢を提供し、拡げていきたい」と今後のビジョンについて語った。

文=本多カツヒロ

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