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その後、藤井は2018年2月にすべての棋士が参加する朝日杯将棋オープン戦で優勝し、公式棋戦優勝の最年少記録を塗り替えた。17年度は、勝率など記録四部門でトップを独占。18年5月には、史上最年少・最速で七段に昇段した。以降も「AIを超えた」と絶賛された妙手で升田幸三賞を受賞するなど、華々しい活躍を続けている。

藤井の対局は、ほぼ毎局、インターネットで生中継される。昼食に何を選ぶか、苦しい局面での表情、お茶を飲むしぐさなど、長時間にわたり細部まで衆目にさらされる。勝つほどに対局が組まれ、忙しくなるのが棋士という仕事。高校に通いながら戦う毎日は、心身にかなりの負担を強いているはずだ。しかし、藤井がいら立ちや不満を露わにすることはない。勝っても負けても超然としている。

インタビューで世間の過剰な注目への感想を問われても、「それだけ関心を持ってもらえるのはありがたいことですから」と謙虚に答える。多忙なスケジュールを縫い、各地の普及イベントにも出演する。その模範的な立ち居振る舞いが、将棋界のイメージアップに大きく貢献している。

将棋を「広い場所」へ連れ出す

「将棋文化を世界に発信する」──。公益社団法人である日本将棋連盟の定款には、国際化の使命がはっきり記されている。ただ、これまでは国内での生き残りに必死で、とても海外に手が回らなかった。しかし、藤井が起こした国内のブームが、海外の将棋関係者を勢いづけている。2019年4月には、5年ぶりの海外タイトル戦として、台湾で叡王戦が行われた。

他方、地元では名古屋市がスポンサーになり、「名古屋城こども王位戦」という次世代向けの新事業が始まった。将棋という山のふもとから頂きまで、さまざまな動きが同時並行で進んでいる。



藤井の最大の功績は、このように盤外で引き起こした変化にある。対局中は勝負師として鋭い表情を見せるが、マイクを握れば地方の純朴な少年そのもの。そのギャップが女性、とりわけ藤井の母親の世代の心を掴んだ。かつて将棋イベントの来場者は年配の男性と相場が決まっていたが、今では半数ほどを女性が占めるようになった。中には将棋のルールさえ知らない人もいる。

以前の将棋は、ルールや専門用語を学ぶ必要があることから、少しとっつきにくい娯楽だった。しかし、藤井が登場してから、多彩な棋士のキャラクターやルックス、人間関係、対局中の食事、伝統文化としての歴史など、あらゆる角度から楽しまれるようになった。万人向けのエンターテインメントとして将棋の潜在能力を引き出した藤井は、狭いところに閉じこもっていた将棋を広い場所へと連れ出したといえる。

昭和の将棋界を率いた十五世名人の大山康晴(故人)は、将棋を日本が誇る文化としてアピールし、関西将棋会館建設など多くの功績を残した。七冠を達成して平成の第一人者になった羽生善治は、持ち前のスマートさで棋士のイメージを飛躍的に高めた。

そんな偉大な先輩たちのように、藤井がこの先の長い棋士人生で何を成し遂げるのか。多くのファンが期待を込めて見守っている。


ふじい・そうた◎2002年、愛知県生まれ。小学4年で関西奨励会に進み、16年に史上5人目の中学生棋士としてプロ入りした。公式戦の勝率は2年連続で首位。

藤井をはじめとした、個性あふれる「30 UNDER 30 JAPAN 2019」の受賞者の一覧はこちらから。若き才能の躍動を見逃すな。

文=岡村淳司 写真=日刊現代/アフロ

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