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「CREW」のアプリが、App Store上から突如消えてしまい、米アップル本社と直接交渉し、配信停止を食い止めたこともある。

不測の事態が起きても乗り越えられるのは、Azitが盤石な組織を形成しているからだ。同社の社員は、大手IT企業や外資系コンサル、リクルート、電通、NHK、国土交通省の出身など、多様なスキルと経験をもつメンバーで構成されている。吉兼は、「20代の創業者の会社だと、一番いいメンバーが集まっている」と自負している。

実は、会社の設立当初から、「事業がしっかりしていないから、まずは組織をしっかりしなければならない」と、組織づくりにはひときわ力を注いできた。人手が足りなくても、闇雲に採用することはせず、時間をかけて「この人とならずっと仕事を一緒にできる」という人材を探した。そして、入社後は「その人だからこそできる仕事」に専念してもらう。

吉兼が1年以上口説き続けて入社してもらった社員も少なくない。結果として、会社設立から5年間で、離職したのはたった2人だけだ。

現状、「CREW」のサービス提供エリアは東京都内と、鹿児島県の与論島、栃木県那須塩原市および那須町など、タクシーやバスが不足して交通に課題を抱える一部の地域にとどまっており、日本にライドシェアを普及させたとはいえないのが実情だ。しかし、吉兼が重要視しているのは、事業を急速に拡大させることではない。

「調達した多額の資金を一挙に投じて大規模にマーケティングをするような、スタートアップ的な戦い方だけで勝てる領域じゃないと思っています。今までの公共交通機関になかった、人の心をつなげられる交通インフラをつくるためには、目先のトラフィック量を10倍にすることだけじゃなくて、『CREW』は必要だよねと、社会から受け入れられることが大事なんです。国や企業、地方自治体、ユーザーなど、いろんなステークホルダーたちと一緒になって、そのための座組みをひとつずつつくっていきたい。そういう意味では、簡単にはいかないプロダクトですよね。でも、その分だけやりがいはあります」

笑顔で話す吉兼からは、苦労というよりも、ある種の余裕が感じられた。それは、彼の中に、確かな“勝ち筋”がみえているからなのかもしれない。

<受賞者たちへの共通質問>
今後3年で成し遂げたいことは?



よしかね・ひろまさ◎1993年生まれ。慶應義塾大学の在学中にAzit設立し代表に就任。2015年10月、モビリティ・プラットフォーム「CREW」をリリース。18年9月には、総額約10億円の資金調達を実施した。

吉兼をはじめとした、個性あふれる「30 UNDER 30 JAPAN 2019」の受賞者の一覧はこちらから。若き才能の躍動を見逃すな。

文=花岡 郁 写真=伊藤 圭

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