ビジネス

2019.08.28

なぜ社会起業家はメディアにたくさん取り上げられて、苦しむのか

ムスカ 代表取締役CEO 流郷綾乃(左)、ソーシャルアントレプレナーズアソシエーション代表理事 荻原国啓(右)

「ハエの会社です。周囲にはハエの社長なんて呼ばれています」

「ハエ社長」という自己紹介に、満席の会場からドッと笑いがわく。7月30日、Forbes JAPANのオフィスで開催された読者イベントでの冒頭でのこと。もちろん、ハエの話をするためのイベントではない。

テーマは、「インパクト・アントレプレナー」。Forbes JAPAN 8月号(6月25日発売)の特集にちなんだものだ。

インパクト・アントレプレナーのことを説明する前に、まずは地球規模で人間社会を脅かしているものを想像してほしい。

自然災害、貧困、気候変動、食糧難、差別、労働力不足、失業……。どれも放置すれば、連鎖反応を起こすように被害を大きくする課題だ。慈善行為で阻止できるものではなく、ビジネスによって持続的に取り組む必要がある。解決することで、社会に大きなインパクトを与えることができる。

社会性と事業性を高度に両立させた新しい実業家をインパクト・アントレプレナーと我々は名付けた。彼ら彼女たちの目的は、「人間のために社会を再構築する」こと。そんなインパクト・アントレプレナーこそが、新しい時代のスタンダードをつくる。

6月に本誌は特集を組み、読者を招待してトークセッションを行った。



「お金には色がある」

「ハエの社長」こと、流郷綾乃はムスカという企業の代表取締役CEOを務める。

「2019年は昆虫産業元年にしなければならないんです」

そう話す昆虫テックスタートアップ「ムスカ」の流郷は、「ムスカの事業は特殊なイエバエの幼虫を用いて、家畜の肥料と飼料を生み出すことです。これによって、牛や豚の飼料である魚粉が供給限界に達する2030年、世界のタンパク質危機の解決を目指しています」と言う。



人口増加と食糧危機という大規模な社会課題に挑んでいる。2019年には伊藤忠商事と丸紅が戦略的パートナーシップを締結。資金調達を行ったが、公益性の高い事業でありながら、葛藤もあるという。

「お金にも色があると実感しました」と言う。例えば、大手企業といっても、どの部署からの出資かによって、目的に微妙な違いが出てくる。

「VC(ベンチャーキャピタル)からの出資なのか事業会社からの出資なのかによっても色は異なり、社会性と自社の理念を具現化するためにも気を遣います」
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文=松浦朋希 写真=裵麗善(ぺ・リョソン)

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