ビジネス

2019.08.27

自意識過剰で失敗の連続。AIオンライン学習サービス立ち上げまでの知られざる試練 #30UNDER30

石川 聡彦


だが、友人たちが次々と大手企業へ就職していっても、石川は最後まで自分の会社にしがみついた。当時、座右の銘にしていたのは、松下幸之助の「成功とは成功するまでやり続けること」という言葉だ。窮地に立たされた石川は、まずは自分が変わらなければ成功できないと気づく。そして、「自分にはビジネスの才能はない」と腹をくくり、初めて人の意見を受け入れるようになった。

「子供の頃から内向的な性格的だったのですが、頑張って自分から何人もの経営者に会いに行き、起業のセオリーなどについて教えを請いました。先輩方からは厳しいことを言われますし、逃げたくなるときもありましたよ」と石川は話す。「けれど、やりたいことをやって大きく成功させる才能があるのは、ほんの一握りの人だけ。自分がやりたいことでうまくいかなければ、考え方の軸をずらすべきなんです。いままで関わってきた人たちと違うコミュニティに飛び込んでみたり、より多くの人の話に耳を傾けてみたりすることで、僕は、社会のニーズを満たすことが大事なのだと気がつくことができました」

AIに着目したのは、事業を継続する中で、ヘルスケア企業からビッグデータ解析の仕事を頼まれたことがきっかけだ。「“超”がつくほどの有名企業にも関わらず、学生に頼むぐらいAIの分野は人材が不足しているのか、と驚いたんです」。企業にとって蓄積したデータは重要な資産であり、外部に解析を依頼する場合は、信頼のおけるITパートナーに任せるのが一般的。機密情報が含まれるケースであればなおさらのことだ。学生が経営するスタートアップに依頼することは、それだけその企業の技術力が高いか、任せられる企業の数自体が少ないかのどちらかということになる。

その後、ベンチャーキャピタルや投資家など、市場に知見をもつ複数の精鋭に、石川はAIに関連する事業案を相談し、ディスカッションを重ねた。AI活用の健康系アプリなど、10以上のアイデアがあったが、最終的に選んだのが、現在のオンライン学習サービス「Aidemy」だ。

19年3月、経済産業省は、AIなどのIT知識をもつ人材が日本の産業界で20年末までに約30万人不足すると発表。AIを使いこなす人材の育成は、いまや大きな課題となっている。市場ニーズを先取りして提供を開始した「Aidemy」は、ユーザーの学習ログをもとにアップデートを重ねることで、ITに不慣れな人から上級者まで、それぞれに適した学習プログラムを提供。これが幅広い層のユーザーを呼び込み、満足度を高める好循環を生んでいる。

一皮剥けて大きくなった石川は、「まわりのひとたちよりも一歩先の世界を見ていたい。僕には、自分しか知らないものを人に広めたい、という気持ちがあるんです」と話す。その欲求の背景にあるのは、少年時代の経験だ。実は石川は、両親が応募した児童プロダクションのオーディションに合格したことがきっかけで、幼稚園から小学校の5年生まで、歌舞伎子役として活動した異色の経歴をもつ。同い年の友人たちよりも少し早く大人の世界に仲間入りし、歌舞伎座で4000人の観客を前に役を演じたときの楽しさは、いまでも彼の記憶に鮮明に残っているのだ。大人になったいまは、それをテクノロジーの分野でも続けていきたいという。

「AIに限らず、量子コンピュータやブロックチェーンかもしれません。分野にはこだわらない。目指しているのは、社会に役立つ技術が浸透する速度を早める手助けをしていくことなんです」



いしかわ・あきひこ◎1992年生まれ。東京大学工学部に在学中の2014年にアイデミーを創業し、代表取締役社長に就任。17年12月にAIプログラミング学習サービス「Aidemy」の提供を開始。著書に『人工知能プログラミングのための数学がわかる本』(KADOKAWA社/2018年)。元歌舞伎子役。

石川をはじめとした、個性あふれる「30 UNDER 30 JAPAN 2019」の受賞者の一覧はこちらから。若き才能の躍動を見逃すな。

文=吉田彩乃 写真=小田駿一

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