医学部志望から藝大満票合格へ。魂の叫びに従い社会課題を描く現代美術家 #30UNDER30

現代美術家 磯村 暖

アトリエに所狭しと並ぶカオティックな作品群。制作したのは、鮮やかなブルーの髪の毛が印象的な現代美術家・磯村 暖だ。

独学で多摩美術大学に一発合格。翌年に挑んだ東京藝術大学の入試では、審査員である教授たちが磯村の作品に満票を投じた。現在は国内外の展示会出品のために各地を飛び回り、この9月からはAsian Cultural Councilのフェローに選ばれ、ニューヨークに拠点を移すことが決定している。

Forbes JAPANは、そんな磯村を30歳未満の世界を変える人物を表彰する「30 UNDER 30 JAPAN 2019」アート部門受賞者のひとりに選出した。

彼がテーマにするのは、「民衆の芸術(フォークアート)」だ。例えば、彼の代表作のひとつである彫刻「地獄の亡者像」は、タイの寺院に設置されていたフォークアートへのオマージュ。なかには、「同性愛の罪」や「国籍を持たない罪」と書かれた像もある。


「Planet of Hell」展示会にて (写真=松尾宇人)

「いったい誰のための地獄なのか、彼らにその苦しみを味わう必要があるのか」──。居場所を奪われた側に寄り添い、民衆に共感の眼差しを向ける。

彼がこうしたLGBTQへの差別や難民などの社会問題を反映した作品づくりをするのには理由がある。

「自分にはずっと居場所がなかった」と語る彼は、ずっと美術をやりたいという本当の気持ちを押し殺し続け、一度限界を見た。

そんな磯村は、いまの活躍に至るまで、どんな道を歩んできたのか。



ずっと居場所のない「カビ人間」だった

「絵ばかり描いていました。一生布団から出られないカビ人間の気分で。居場所がなくて、僕自身がずっと追いやられる側だったんです」

小さいころから絵を描くのは好きだったが、その場所はいつも布団の中だった。5歳で両親が別居。以来、東大出身の医師である父と姉と暮らしていたが、小学生のころはいつも喘息の発作に悩まされ、いつしか外に出られなくなった。それでも医師の父から「病院に行く必要はない」と言われ、発作で夜も眠れず無気力状態の日々が続いた。
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文=松崎美和子 写真=伊藤 圭

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