進化するヘルシンキの図書館が「天国」と言われる理由|フィンランド幸せ哲学 vol.3

ヘルシンキ中央図書館「オーディ」



ヘルシンキ市のエグゼクティブディレクター、トミ・ライティオ(筆者撮影)

「オーディは、市民の夢でつくりました。図書館の役割は変化しています」とヘルシンキ市のエグゼクティブディレクターであり、文化やレジャー担当のトミ・ライティオは話す。

トミは、10年ほど新聞社で政治記者をして、シンクタンクで温暖化や公共施設のプランニングなどを研究した後、2012年からヘルシンキ市で働き始めた。

オーディの資料によると、フィンランド人は、世界で最も図書館を積極的に利用するという。550万人の国民が1年間に6800万冊の本を借りており、1人当たりに換算すると12冊以上。2017年には、国は図書館サービスに関して、国民1人当たりにつき57ユーロ(6700円相当)を支出しており、アメリカより約1.7倍多い。

オーディでは、本を貸し借りするだけでなく、市民の声を受けて音楽スタジオやミシン、3Dプリンタなども設置した。先に他の図書館で試験的に導入をしてみて、オーディに反映したのだという。

2018年のオープン当初は、1日約3万5千人が訪れ、半年ほど経つと1日約9千人に落ち着いたという。「オーディのおかげで、ほかの図書館も人気なスポットになりました」とトミは笑う。

市役所による「ケア」

蔵書については、専門書を含めて「バラエティをケア(配慮)しています。バランスが必要なのです」と言う。市民からのリクエストがあっても、すべてを反映するのではなく、冊数を調整するのも役割のひとつだ。例えばミシェル・オバマの「Becoming」は多くの希望があったが、複数購入しないようにしたという。トミの「ケアしている」という表現は、社会福祉が充実した北欧らしい言葉だと感じた。

市民向けのサービスやイベントを企画するときにも、「バランス」を大切にしているという。一体どういうことだろうか。バランスを気にする結果、無難になってしまわないのだろうか。

トミによると、「市民が何を喜ぶか」という視点を大切にする一方で、迎合はしないという。図書館を「市民が知らないものと出会えるチャンス」と捉え、好きになるきっかけを与えるようなコンサートや展示などを企画する。そして「無理して好きになってもらう必要はなく、嫌いになっても良い。皆さんの自由です」と付け加えた。

例えば、ヘルシンキ市では、生まれたばかりの乳児と7歳児向けに、誰でも聴きに来ることができるオーケストラコンサートを開いている。また10歳になると「市長とのレセプション」にも招くのだという。「VIP向けのパーティーようなイベントで、学校で学んだダンスを披露したり、市長と握手して話したりします。子ども用にノンアルコールカクテルも用意するのです」

また、市役所の役割については、トミは次のように話す。

「どんな人でも気軽にカルチャー体験ができるようにするため、さまざまな障壁を取り除くようにしています。図書館や博物館、美術館は堅い場所ではなく、子どもたちが遊んだり、カップルがデートで出かけたりできるような場所にする。皆さんが足を運ぶために不安な理由を取り除くのが私たちの仕事です」

そして最後に、「ヘルシンキを深く知りたいならオーディへ! 市民のような体験ができますよ」とトミは付け加えた。

日本でも、近年、地方を訪れると図書館を擁したユニークな施設に出合う。筆者お気に入りの、岐阜市の中央図書館がある「みんなの森 ぎふメディアコスモス」は、ギャラリーやホール、カフェなども入った複合施設で、山頂に岐阜城がそびえ立つ金華山を臨むテラス席などもあり、市民の憩いの場になっている。また、オーディのように木のぬくもりが生かされたデザインが美しい。

トミの言うように、旅先で図書館や美術館に足を運び、「市民」のように振る舞うことで、さらにその街を深く知ることができるだろう。

文=督あかり 写真=Aleksi Poutala

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