人は「デザイン」ではなく「メッセージ」に引き寄せられる
──経営を始めてから数カ月。手応えはいかがでしょうか?
赤坂:ブランドを経営してみて改めて痛感したのは、生活者はやっぱり潜在的に「分かりやすさ」を意識をしているということ。
僕自身は派手なデザインだと落ち着かないタイプで、WIND AND SEAにおいてもグラフィックを小さめにしたデザインを販売してみたのですが、当初から販売をしていたグラフィックが大きい方が人気がありますし、求められています。
上で話したのはあくまで一例ですが、僕はどんなデザインが世の中に刺さるのかを正確に掴みきることは不可能だと感じました。そこから、人は「分かりやすいデザイン」だけではなく、感情やメッセージ性、宗教性、カルチャーに引き寄せられるのではないか、という仮説を持つようになりました。
デザインそのものも勿論重要です。しかしその裏側にあるストーリーがさらに大事。テック系出身の方が立ち上げたD2Cブランドの商品を最初に使うのは、同じテック系の方々が初期採用者になったりします。これは創業者が感じた課題や想いの一次伝播先が近辺の経営者の友人達から始まるからです。こうした本物の共感がないと、たとえどんなにデザイン性が高くても購入されないし、口コミも起きない。だからこそ、僕は背景、メッセージ、共感が重要なのではないかと考えています。
参考になった「VERDY」の存在
その点において、僕が国内で参考にしているのがグラフィックアーティストのVERDY(ヴェルディ)さんです。彼が手がけるプロジェクト「Girls Don’t Cry(ガールズ ドント クライ)」は“奥様にいつも笑顔でいてほしい”という思いを込めて「泣かないで」を意味するメッセージが書かれたTシャツを販売したんです。これがとても話題を呼びました。反響に応じてビジネス系などのさまざまな人々が次々と近づいてきたのではないかと想像します。そこで今度は同氏が手掛けるプロジェクト「WASTED YOUTH(ウエステッド ユース)」から、「Don’t bother me anymore」というメッセージが描かれたTシャツを出した。
僕はこの言葉を「俺に構うなよ」といった意味だと捉えています。カルチャーサイドにいる人にとって、ビジネス系の人からの一方的なアプローチは鬱陶しい。それをそのままメッセージとして表現していくことがとても美しいですし、思想をファッションとして表現する、媒体がたまたまTシャツだっただけ。これこそがブランドだなと思いました。現代アートと近しいと思います。
他にもスタートアップの方々が「hey(ヘイ)」の会社のTシャツを着たりしますよね。自分が勤めている会社ではないのにあれを着るのは、ただTシャツのデザインが良いからだけではなく、「heyがしていること」つまり会社の中の人や思想をどこかカッコいいと感じているから。「デザイン<思想への共感」です。これがブランドの始まりです。