ビジネス

2019.08.26 12:00

勘違いされるD2C。ネット専売は「中間マージンを省く」だけじゃない


顧客との関係性によって商品をアップデートする、IT的モノづくり

D2Cの強みは顧客との接点をオンライン、オフラインにかかわらず持つことで、つねに生の声を拾って、商品開発や販売手法の参考にすること。すべての企業が消費者の声をすべて反映させているわけではないが、参考材料にしつつ、PDCAを回しブランドをアップデートし続ける。

山下は「顧客は共犯者」だと語る。「毎週店舗でいくつものワークショップを開催しているが、ここではお客さんと一緒に新商品を作る。実際に製品化されて、定番商品になることもあります。そうするとお客さんは店員以上にその商品に思い入れを持ち、語り、ブランドを拡散してくれる。消費者をプロダクトの工程に巻き込み、売り手と買い手の境界をあいまいにすることで、文化を作っていけるんです」。

レザーアイテムを扱う「objcts.io(オブジェクツアイオー)」も「顧客と共犯関係」でブランドづくりをしている。


提供=objcts.io

objcts.ioは、土屋鞄製造所で商品製作やサイト・SNS運営などに携わったZOKEI代表取締役の沼田雄二朗らが立ち上げたレザーブランドで、“イノベーターのための上質なプロダクト”を掲げ製作している。沼田はアメリカ滞在中に見たD2Cブランド市場の成長に感化され、「レザーを起点に“デジタルドリブン”の新しいブランドを作りたい」と考えた。その後、15回ものサンプル製作を経て、17年末からメイン商材のバックパックを試験販売。18年11月にブランドを正式スタートした。

沼田もモノづくりについて、「質の高いプロダクトを作ることが最優先」と話す。「最終的な判断は自分たちの直感ではありますが、こだわりの強い知人や顧客からのフィードバックをもとに製品開発のPDCAを回しています。目指すべきは自分たちらしい製品を作って顧客に満足してもらうこと。使えるテクノロジーをフル活用しながら、顧客体験価値を上げていきたいです」。

slackなどのコミュニケーションツールを用いたヒアリングも行っているobjcts.ioだが、やはり向かう先は「より良い商品づくり」で、そのためには顧客の声を直接生産工程に反映させる必要があったというだけ。D2Cという仕組みはむしろ、“プロダクトファースト”を目指すブランドのためのツールにすぎないのである。

文=角田貴広

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