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ストーリーよりも“プロダクトファースト”であること

しかし、重要なのはストーリーだけではない。もっとも重要なのが「商品のクオリティー」である。当然のことではあるが、D2Cブランドの大きな特徴は「ストーリー性」ではなく「商品力」である点が意外と見過ごされがちだ。

たとえば、大手アパレルで生産管理を経験した下田将太・代表が17年にスタートした「10YC(テンワイシー)」。


提供=10YC

大量生産・大量消費の大手アパレルの生産工程を見て「何のために洋服を作っているのか」と疑問を感じた下田が“10年着続けたいと思える服”をコンセプトに始めたブランドだ。メイン商材のカットソーは6000円から。

「とにかく10年着続けられるいいもの作りたい想いでスタートしたプロダクトアウト型のブランド。売るためではなく、使うために作っているので、一番重要なことは品質でした。共感されるストーリーがあるのは当然。それに比例するだけの品質がなければ意味がありません」と下田は強調する。

これまでのサプライチェーンでは、大手アパレルからの大量発注こそ大きな売り上げにつながるため、洋服の生産工場からは歓迎される。一方で、D2Cブランドのような規模の小さいブランドに対して親身になってくれる工場は多くない。それでも下田は挑み続けた。

「小さいブランドはなかなか工場の協力を得られず、できる範囲で“それなり”のプロダクトを作ってしまいがち。でも僕たちは、最初からいいものを作ることだけを徹底しました」。

良いものをつくろうとこだわれば原価が上がり、価格も高くなる。誰もが買える範囲の値段で、最高にいいものを作ることが「10YC」の目指す世界だ。

偉大なる未完成品を目指して

“引き算のチョコレート”をテーマにした「Minimal(ミニマル)」は、βace代表取締役、山下貴嗣が14年にスタートしたブランドだ。


提供=Minimal

山下自身が世界中のカカオ農園に足を運び、品質の良いカカオ豆を選んで仕入れ、自社工房で商品を作る。そんなMinimalにも「カカオと砂糖以外使用しない“引き算”の製法によって、今まで食べたことのないチョコレートを作る」というストーリーが明確にある。

βaceのオフィスは最低限の機能を持つだけで、そこにはほとんどコストをかけていない。その分のコストを製品開発にかけたいからだ。山下は「私たちがやっているのはプロダクトの改良、ただそれだけです。だから、実際に僕たちが海外へカカオを探しに行くし、保管場所や輸送コンテナにもかなりの費用をかけています。オフィスを作るくらいなら、顧客接点としての店舗を作りたいんです」と語る。

さらに聞くと、「普通に考えると非効率だが、誰もやっていないからこそ、続けることで品質に差が出ることはすでに分かっている」と山下。「すでにブランドとしてある程度の認知をしていただいていますが、まだまだ現状は富士山の一合目くらい。現状に甘んじることなく、改良を続ければ、ストーリーもついてきます」

山下いわく、目指すのは「偉大なる未完成品」だ。チョコレートを旬とともに素材や味わいが変化していく“嗜好品”と捉えているため、つねに同じ製品が生まれるわけではない。むしろ、少しずつ変化していく機微に消費者が気付くことで、そこにストーリーが生まれると考える。“引き算”の製法だからこそ、そんなストーリーを生み出す余白があるのだ。

文=角田貴広

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