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2019.08.26 08:00

日本人初「ファッション界のノーベル賞」受賞。若き異才の頭の中 #30UNDER30


川崎は、モードやストリート、ジェンダーなどファッションのカルチャーやスタイルに関しても言及する。「インスタグラムをはじめとしたSNSやECの普及なども影響して、かつてファッション界に君臨した『モード』も根本から変化を迫られています。情報環境における『コード』や『ミーム』が、ファッションのカルチャーやジェンダーのあり方を多様化させています」

さらに、19世紀のオートクチュールや20世紀中盤のプレタ・ポルテといった時代から受け継がれているサイズ「S、M、L、XL」に規定されたファッションも、これから変化を求められていく。

こうした多様化するサイズやスタイルに寄り添ったファッションのシステムを根付かせるためにも、衣服のカスタマイゼーションを浸透させたいと川崎は話す。

「デジタルの一番おもしろいところはバーチャル上にバリエーションを多く生成できるところ。あるテンプレートデザインをもとにした素材や色の組み合わせがたくさんあって、一人一人の趣味や好みによってカスタマイズできる。個人が“洋服をリミックス”できる時代が理想です」

実現のためには、従来のファッションのシステムを更新することが重要だ。サイエンス、テクノロジー、あるいは批評や思想などあらゆる視点から問いと対峙し変えていく川崎は、既存のファッションの世界では数少ない異端の存在。しかし、だからこそ可能性は大きい。

「現在活発なサステナビリティやデジタルの潮流をトレンドで終わらせず、次の当たり前として実装すること。そのために具体的な方法を構想し実践するのは、僕のようなサイエンスやファッションを横断する人の責任だと思うんです」

川崎の革新的な衣服製作は、これまで数々のアワードを受賞するなど注目を集めてきた。

2019年5月、廃棄物ゼロの衣服生産を目指す「アルゴリズミック・クチュール」を発表。


生地裁断のときに廃棄が出ない、アルゴリズミック・クチュール

通常の衣服製作時に用いる布は四角形だが、人間の体は曲線。そのため人間の体に合わせて曲線を描き裁断する従来の方法では、生地の15%が廃棄されてしまう。

そこで「アルゴリズミック・クチュール」では直線裁断パターンを採用。着用者の3Dデータに基づいて身体寸法ぴったりの型紙を自動作成し、廃棄物の削減を実現するプロジェクトだ。

このプロジェクトは、H&Mファウンデーションが主催する「第4回グローバル・チェンジ・アワード」のアーリーバード特別賞を受賞。ファッション界のノーベル賞と言われるこのアワードで、日本人として初受賞の快挙だった。
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文=田中一成 写真=伊藤 圭

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