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2019.08.26 08:00

日本人初「ファッション界のノーベル賞」受賞。若き異才の頭の中 #30UNDER30


新しい欲望を生み出すサステナビリティとデジタル

17年にボストンコンサルティンググループが発表したレポート「Pulse of the fashion industry」によると、ファッション業界のCO2排出量は15〜17年の2年で60%以上増加し、30年には年間約20億8千万トンにもなると予測されている。

これは2億3千万台の乗用車から排出されるCO2の量にほぼ等しい。化学物質の使用も多く、土壌や水質汚染も問題視されている。

布の廃棄も深刻な問題だ。従来の製法では、洋服ができあがるまでのプロセスで大量の廃棄が出る。またファストファッションブランドを筆頭にした大量生産による大量廃棄も一因だ。

だからこそ川崎は、後述する「アルゴリズミック・クチュール」でも試みているように、デジタライゼーションによって衣服製作を無駄なく最適化し、廃棄を減らす実験を重ねてきた。



「ファッションに関連するサステナビリティ(持続可能性)やエコロジーといった言葉に対する偏見は大きい。そのキーワードを挙げると、“淡い色でゆったりしたシルエットでロハスな感じ”というように、画一的なイメージを想起する人も多いかもしれません。でも、“循環するファッションへ移行できるか”という問題は、サイエンスやデザイン、ビジネスなど多様な角度からアプローチすべき複雑で大きな問題なんです」

環境問題に対する打ち手として「できるだけ洋服を買わないこと」や「スローファッション」が推奨される風潮もあるが、川崎は別の打ち手を模索する。

「ファッションは人間の新しい欲望を常に更新していくのがおもしろい。抑制、緊縮、節約する発想だけでは新しい創造性は生まれません」

サステナビリティの在り方を示すファッションとして、川崎はアディダスの新しいランニングシューズ「FUTURECRAFT.LOOP」を例示した。

白いランニングシューズはアッパーからソールまで単一のプラスチック素材で作られており、完全に分解が可能。ランナーが汚したり履きつぶしたりしたシューズを回収してリサイクルし、定期的に新しい靴を再び手元に届けるエコシステムを作っている。


FUTURECRAFT.LOOP (撮影=編集部)

「環境問題は完璧な解決が難しい、意地悪な問題です。でも、新しい人間の欲望を作るというファッションの文化的特徴を生かした、次の作り方を生み出すことは可能なはずです」
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文=田中一成 写真=伊藤 圭

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