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朝日新聞編集委員(朝鮮半島、米朝・日米関係担当)

北朝鮮のスマートフォン

少し前、脱北者の知人から平壌に残る親族から届いた結婚披露宴の映像を見せてもらった。それも、やはり、北朝鮮スマホで撮影した映像だという。

平壌エリート層の結婚式らしく、宴会場こそそれほど広くないが、大きな丸テーブルがいくつか並び、華やかなチマ・チョゴリ姿の女性や背広あるいは軍服姿の男性たちが座っている。テーブルのうえには、朝鮮料理が所狭し、と並んでいた。余興は日本と同じで、あちらでも出席者が祝いの歌を歌ったり、お祝いの言葉を捧げたりしていた。

そしてメインイベントがとても面白かった。出席者がめいめい、抱えきれないような巨大な段ボールを次々と新郎新婦の席に運んでいったのだ。新郎と新婦は、それぞれ、この大きな贈り物をひとつずつ笑顔で受け取っていく。もう本当に破顔一笑という風情だ。

「あれは何が入っているの」と知人に尋ねてみた。大体が、電化製品であったり、置物であったり、それなりに値段のするものが入っているのだという。「朝鮮では大きさが大事。やっぱり、大きいほど高いもの、という感じがするからねえ」と教えてくれた。

「みなが平等」という仮想空間

これも世の流れか。北朝鮮では人々が「みなが平等」という仮想空間に縛られて生きている。もっと正確に言えば、「最高指導者とその一族以外はみな平等」ということだった。

北朝鮮の人々が、黒い服や紺色と言った人民服を愛用していたのは、「他人より目立たないようにする」という用心があった。

別の脱北者の知人はある日、お祝い事があったので、家族で1年に1度というご馳走を食べた。食べ終わってハタと困ったのが、残った骨の処理だった。知人は当時の心境を「アパートのゴミ処理場に捨てれば、誰がこんな贅沢をしているんだと噂になる。下手をすれば、査察も入りかねないと心配になった」と話してくれた。結局、夜明け前にこっそりと遠くのゴミ処理場に捨てに行ったという。

ところが、読者の皆様もご存じの通り、ここ数年、北朝鮮の人々の服装がオシャレになっている。もちろん、そこには北朝鮮当局には、安価な国定価格で制服を配給できるだけの余力が失われているという事情がある。よくよくみると、色合いもどことなく派手だ。それは、安価な中国製の大量消費用の製品を利用しているからだとも言われる。

それでも、驚くべき事は、北朝鮮の人々が、他人と違う格好をすることを恐れなくなっているということだ。結婚式で「巨大な贈り物」を競って受け取ろうとすることも、この流れの一環だろう。

文=牧野 愛博

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