婚約指輪代わりにスマホを贈る
そのなかで、スマホは小さな製品ではあるが、確実に富の象徴となっている。韓国・北韓改革放送の金承哲(キムスンチョル)代表によれば、スマホを婚約指輪代わりに女性に贈る現象が、数年前から各地でみられるという。金氏は「まさにスマホは、裕福であることの証明書なのです」と語る。
そして、様々なメディアが伝える北朝鮮の映像をみてみれば、市民たちが他人の目を気にすることなく、スマホをかざして、平壌の名所の前で記念撮影に興じている。他人の目を気にすることなく、公共の場でスマホのアプリでゲームを楽しんだり、会話に興じたりしている。
これは、北朝鮮の人々が、「我々の社会は事実上、資本主義社会」だと認めたことを意味する。当局も、市民が携帯電話を使って欧米や韓国の音楽・映画を楽しめば取り締まるだろうが、携帯の使用までは取り締まれない。政治的な匂いさえ消すことができれば、貧富の格差を楽しむことが許されているのだ。
将軍様も同じスマホ
別の北朝鮮関係筋によれば、2009年4月、金正日総書記が金正恩氏を連れて、「衛星運搬用ロケット」と称する長距離弾道ミサイルの発射指揮所を訪れた。
数日前、ミサイルの発射は成功していた。喜んだ金正日氏は「科学者たちの希望は何か」と聞いた。指揮所の副所長が「将軍様と記念写真を撮って、家門の誉れにしたいです」と、おそるおそる申し込んだ。金総書記は気軽に、「科学者の皆さんのお願いであれば、すぐ聞かなければならない」と言った。
そして手元に取り出したのが、「F107」と呼ばれた当時の最新型スマホだったという。金総書記は自分で写真技師に電話し、すぐに指揮所まで来るように命じた。科学者たちは、「自分たちと同じスマホを将軍様も使っている」と思って興奮したそうだ。
北朝鮮当局は、スマホが「アラブの春」のような結果を招くことはないと自信を持っている。盗聴率は100%。すべての会話は自動で録音され、3年間は国家が保存する。問題があれば、すぐに照会できる体制が整っている。一部の高官が持つ携帯電話は常時、リアルタイムで盗聴されているという。
それでも人の心の変化までは止められない。
北朝鮮の最高指導者が火をつけた携帯ブームは、いずれ「地上の楽園」と自称した北朝鮮の独裁体制を崩壊に導くのかも知れない。