たった15分。1日の終わりの「雑談」が親子を変える

久山葉子氏


夫婦で取る場合の育児休業は480日。でも「片方だけだと390日」

スウェーデンの育児休業は、子どもひとりに対し480日。だが、これは夫婦が順番に休みを取った場合の日数だ。たとえば母親だけ、と片方の親しか育休を取らない場合には、90日間短い390日しか取得できない。これは、父親にも育児休業を取得してもらうためにと制定された国の政策だという。

もちろんスウェーデンの若者たちも、思春期になれば扱いは難しくなる。ただ、それは「父親限定」ではない。母親にも同様に反抗はする。久山氏の夫の職場は男性ばかりだが、同僚同士で、「娘は思春期だけれど、なんとか生き延びているよ」「うちもだよ。お互いに大変だよなあ」というようなことを笑い話として話す場面を多く見かけるという。ただし、長い時間をかけて父と子の信頼関係を築き上げているので、なにも思春期は特別な時期でもなんでもないということだ。 

思春期になってからでは遅い?

「子どもが思春期になったから、といって急に向き合おうとしても遅いのではないでしょうか」と久山氏。週末や平日早く帰ったときにだけの「期間限定」で育児に参加することの多い日本の父親には、なかなか耳の痛い言葉ではないだろうか。

久山氏夫婦がスウェーデンに移住をした顛末から保育園入園にまつわる悲喜こもごものエピソードは、著書『スウェーデンの保育園に待機児童はいない』に詳しいが、日本に暮らしているときには例にもれず、いわゆる「ワンオペ育児」だったという。夫は毎日帰りが遅く、子どもとはすれ違いの生活。久山氏自身は、育休を終えて職場に復帰したものの、育児と仕事の両立にヘトヘト。しまいには過労から肺炎をこじらせてしまうほど。

そのようなことが続いたある日、「もっと家族と一緒に過ごしたい。もっと心に余裕のある生活を送りたい。日本が子育てしやすい国になるまで待っていたら、子どもは大きくなってしまう」と夫が海外移住を提案。スウェーデンに移り住むことになったという。



移住直後は、カルチャーショックとホームシックに悩まされた。最初に住んだアパートでは、住民共同で使用する予約制の洗濯機の使用時間を間違えて、久山氏は近隣住民から大目玉を食らったのだ。スウェーデンでもっともやっていはいけない三大タブーは「脱税」と「列の順番抜かし」そして「洗濯時間を間違えること」だと夫から聞いたのは、その直後だったそうだ。

そのほか、日曜日に繁華街に出かけても店がほとんど開いていなくて途方に暮れたり、夫が胆石で激しい腹痛を訴えたときに「石を取る手術は最短で半年後です」と病院で言われ、絶望的な気分になったり……。こんな経験を重ねながら約10年。「今では、ストレスも格段に減りました」とほほ笑む久山氏には、かつてはギリギリの毎日を生きていた、という生活疲れは見られない。 
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文=柴田恵理 編集=石井節子

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