「ボヘミアン・ラプソディ」の監督が描くエルトン・ジョンの半生

(c)2018 Paramount Pictures. All rights reserved.


エルトン本人も褒めた主役の歌唱力

映画「ロケットマン」の監督を務めたのは、デクスター・フレッチャー。去年、大ヒットを収めた「ボヘミアン・ラプソディ」で、監督のブライアン・シンガーが、撮影終了の2週間前に降板した後、現場を引き継いで、作品を完成させた人物だ。

そのような経緯もあり、「ロケットマン」は「ボヘミアン・ラプソディ」の成功を受けて公開される音楽映画というように語られることも多い。しかも、主人公はどちらも同性愛者で、作品も回想形式をとっていることから、何かと比較される。

しかし、「ロケットマン」の企画自体は、10年以上前から始まっており、「ボヘミアン・ラプソディ」がクイーンの中心人物、フレディ・マーキュリーの伝記作品であるのに対して、「ロケットマン」は主人公がまだ存命の人物ということもあり、ミュージカルという一種ファンタジーのようにつくられており、けっして便乗作品ではない。

音楽の使い方も、「ボヘミアン・ラプソディ」はほぼつくられた時代順に並べられているのに対して、「ロケットマン」では、創作時期に関係なく、各シーンに合ったものが、エルトンの曲から選ばれている。より音楽の使い方につくり手の意図が貫かれている作品と言えなくもない。

しかも、劇中でエルトンの曲を歌っているのは、主演を務めたタロン・エガートン自身で、彼は5カ月間にわたる歌とピアノのレッスンを受けたという。その意味からも、この作品がミュージカルであるということは言を俟たない。


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タロンのエルトンは、実に嵌っている。タロンが主演する「キングスマン」シリーズ最新作の「ゴールデン・サークル」では、エルトンが自分自身の役柄で全面的に出演していたこともあり、近しい存在であったことは確かだろう。エルトン自身もタロンの歌には、手放しで称賛を送ったという。

もちろん、作品では、冒頭のエルトンの困難な状況がどのように克服されていったかも描かれていく。そのあたりは虚実綯い交ぜにはなっていると思うが、ただの歌って踊ってのミュージカル作品ではないことは確かだ。

「ロケットマン」が、「ボヘミアン・ラプソディ」のような大ヒット作品になるかどうかはわからないが、少なくともこの映画で描かれているエルトンの半生は、観る人々の興味をひきつけるに違いない。

ちなみに「ロケットマン」というタイトルは、エルトンが1973年に発表したアルバム「ホンキー・シャトー(Honky Château)」の中の1曲から取られている。

その曲「ロケットマン(Rocket Man)」は、たった1人で宇宙に向かって飛び立ってゆく男の孤独を歌い上げた曲で、作品中でもエルトンがプールに飛び込み、自殺未遂をする場面で幻想的に使われる。このシーンもまた音楽と映像がマッチしていて、美しい。

連載 : シネマ未来鏡
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文=稲垣伸寿

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