農場でのアルバイトを経てつかんだ、世界最高峰の大学への道

農場の下宿先でアルバイト仲間と共に(左端が筆者)


そして11月、ケンブリッジ大学の試験です。ケンブリッジ大学では3日間にわたり試験が行われ、筆記試験の他に面接が重視されます。面接ではケンブリッジ大学に入学する目的や、何を学びたいのか、将来の目標などについて複数の面接官に説明することになります。

私は「絶対に受かる!」と自分に言い聞かせていました。面接では私が英国に来ることを決めた『自由と規律』の本に感化された経緯、英国で学び日本に「何か」を還元したい目的、戦後復興期の日本が翌年(1964年)に開催される東京オリンピックの誘致に成功したこと、農場で学んだ知識や経験などについて積極的に面接官に伝えました。

引っ込み思案だった私はもういません。わずか1年弱の滞在期間で、ケンブリッジ大学の面接官たちに私の想いと熱意を英語でぶつけている自分の成長を自ら実感していました。

「あなたの経歴に価値を見ているのです」

そして翌年の1964年1月、ケンブリッジ大学から合否の通知が届きました。口から心臓が出るほど緊張しながら封筒を開くと、そこには「合格」と書かれていました。大学進学率がわずか2%だった当時、日本人の私が世界最高レベルのケンブリッジ大学に入学できたことは奇跡と言えるほどの確率です。夢にまで見た合格の喜びを真っ先に祖父と母親に伝えたく、電報を打ちました。
 

母親が大切に保管してくれていた電報

そして1964年10月、ケンブリッジ大学の入学式で大学の総長が私にこう言ってくれたのです。

「ケンブリッジ大学があなたを価値のある人物と判断したのは、成績が良かったからだけではありません。あなたは10代後半まで日本で普通の日本人として、日本の教育を受け日本の文化や習慣を背景に生きてきた。その文化的背景を持ったあなたが、ここ英国で学ぶということが私たちにとって何よりも貴重なのです。あなたは将来日本と英国をバックボーンにしたバイカルチャーな人物として世界で活躍することが期待できる。ケンブリッジ大学はそういうあなたの経歴に価値を見ているのです」

日本から来た21歳の若造に、英国の大学が期待してくれている。 私に英国人の真似をしろと言っているのではなく、日本人としての誇りとカルチャーをもって英国で学べと言ってくれている。この言葉に私は感動しました。

世界最高レベルの大学が求める人材とは、教科書から知識を詰め込んだ成績だけが優秀な人材ではなく、さまざまな文化的背景を理解し、自ら見聞を広め成長できる「バイカルチャー」な人物であることだと理解しました。そして、「バイカルチャー」の資質こそが将来グローバルリーダーとして活躍するために必要であることを確信したのです。

この日、日本人であることの誇りを持ってケンブリッジ大学で学ぶ意欲が沸いただけでなく、総長がかけてくれた言葉により、英国で学んで日本に還元するものの「糸口」が見つかったのです。

連載:グローバルリーダーの育成法
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文=田崎忠良

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