ビジネス

2019.08.21

アップルの新時代を告げる「クレジットカード」事業への参入

nikkimeel / Shutterstock.com

アップルは8月20日、ゴールドマン・サックスと共同開発したクレジットカード「アップルカード」の、米国での申し込み受け付けを開始(日本での開始は未定)した。クレジットカード事業への参入は、アップルが同社のビジネスモデルの軸足をiPhoneなどの電子デバイスから、サービス中心に移行していくことの象徴だ。

アップルカードの1つの売りは、現金と同レベルのプライバシーが維持できる点にある。アップルはゴールドマン・サックスとの提携でカード事業を立ち上げ、決済の承認にはマスターカードのネットワークを利用する。

手数料は無料で、物理的なカードを用いずに、アップルペイのアカウント経由で支払いが可能になる。利用者がどこの店で何を買ったのかを、アップル側は把握できない。運営を行うゴールドマン・サックスも、外部企業と支払いデータを共有したり、データを広告事業に活用することはないという。マスターカードは同社のネットワークを用い、決済の承認を与えるのみだ。

アメリカン・エキスプレスなどの既存のクレジットカード企業の大半は現在、決済データをヘッジファンドなどの外部企業に販売している。彼らは決済データから企業の売上動向を把握したり、広告に活用することで利益をあげている。一方で、アップルが打ち出す決済のプライバシー保護の姿勢は、既存のクレジットカード企業と一線を画すものといえる。

さらに、アップルカードはAIを用いて買い物の状況をリアルタイムで把握できる点も魅力的だ。取り引きはWalletアプリから確認可能で、どこでどのようにお金を使っているのかを色分けして表示できる。

さらに消費者にとって大きなメリットとなるのが、キャッシュバック機能だ。アップルカードを用いて、アップルペイ決済でウーバーやウーバーイーツを利用した場合、3%のキャッシュバックが得られる。また、別途発行される物理的なアップルカードで決済を行った場合も、1%のキャッシュバックが得られる。

アップルは今回の正式サービスの開始に先駆け、8月上旬から一部の顧客限定のテスト版を提供してきた。同社の決済部門のバイスプレジデント、Jennifer Baileyは「アップルカードは、既に高い支持を獲得している。顧客は決済のシンプルさや、支払い状況を簡単に確認できる点に魅力を感じている」と述べた。

アップルカード事業を成功に導けば、アップルは収益源を多角化し、iPhoneに依存せずとも事業を拡大できることになる。さらに、カード事業への参入で、アップルは消費者の暮らしのあらゆる側面に食い込むことが可能になる。

しかし、全ての顧客データを統合的に管理するためには、セキュリティ面での非常に慎重な配慮が必要だ。アップルは長期的スタンスで、プライバシーやセキュリティを厳重に守る、テクノロジーを磨き上げていくことを求められる。

編集=上田裕資

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