定年前後にやってくる2つの介護リスク 「主観的健康寿命」が重要だ

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2025年、団塊世代が75歳以上の後期高齢者になると、日本はまさに「大介護時代」を迎える。いわゆる「2025年問題」だ。定年前には親や配偶者の介護が必要になる一方、定年後には自らの要介護状態が懸念されるなど、これからの長寿時代には2つの介護リスクが高まるだろう。

定年前の介護リスク

増加し続ける高齢者介護を一体だれが担っていくのだろうか。厚生労働省の「平成28年国民生活基礎調査の概況」をみると、要介護者の約6割が主に同居する家族により介護されている。ただ、近年では同居家族による介護が減少、主な同居介護者として「子の配偶者」(主に要介護者の息子の妻)が大幅に少なくなっているのだ。その背景には、三世代居住の減少や女性就業率の上昇により専業主婦世帯が大きく減っていることがある。

一方、事業者と別居家族による介護が増加している。理由は「一人暮らし」高齢者の増加だ。2020年には高齢者世帯の4割近くが「一人暮らし」になる。今後は、ますます事業者と別居家族による介護が増加するものと思われる。

同居する家族の主な介護者の3分の2は女性だが、近年は男性比率が上昇している。また、年齢別では男女ともに50~70歳が全体の半数程度を占める。親や配偶者の介護問題に直面する中高年層は多く、65歳以上同士の老老介護が半数を超えている。仕事を持っている中高年の介護者が増え、介護を理由とする介護離職者が年間10万人近くになり、長寿化は中高年層の定年前の介護リスクを高めている。

介護離職を避けるために

これまでワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)は少子化対策として「仕事と子育ての両立」が重要な視点だった。今後、高齢化が一段と進むと「仕事と介護の両立」が不可欠になる。その実現は中高年男性も含めた世代を超えた喫緊の課題となり、企業は新たな対応を迫られることになるだろう」。

中高年層の介護離職を回避するためには、介護を自分一人、または家族だけで抱え込まないことだ。日本では2000年に公的介護保険制度が導入され、介護の社会化が進んでいる。ただ、介護保険のサービスを活用するには十分な知識と情報が必要だ。今後も介護サービスの拡充が図られようが、それだけで大介護時代を乗り切ることは難しい。

今後は事業者サービスの隙間を埋める家族等のインフォーマルな介護支援の重要性がますます高まり、多くの中高年男性は介護の当事者となる。最大限に介護サービスを活用した上で、それを補完するような家族介護をすることが、介護離職を防ぎ、要介護者と介護者双方の生活の質を高めることにつながる。

定年前に介護離職をしないためには、また定年後に幸せな最期を迎えるためには、「介護者」シナリオを織り込んだ「老い支度」が必要だ。人は介護に直面することで自分自身の要介護期の暮らし方が具体的にわかる。介護者としての「老い支度」は、要介護者としての「老い支度」でもあるのだ。
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文=土堤内昭雄

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