定年前後にやってくる2つの介護リスク 「主観的健康寿命」が重要だ

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定年後の要介護リスク

2016年度末の公的介護保険の65歳以上の第1号被保険者は約3440万人、65~74歳の前期高齢者が1745万人(50.7%)、75歳以上の後期高齢者が1695万人(49.3%)だ。そのうち要介護・要支援認定者は約619万人、前期高齢者が75万人(12.0%)、後期高齢者が544万人(88.0%)だ。前期高齢者の要介護割合は4.2%、後期高齢者は32.1%と前期高齢者の7.6倍にも上る。

介護が必要となった理由は、要支援者では「関節疾患」が17.2%と最も多いが、要介護者では「認知症が」24.8%と最多になっている。厚生労働省の資料では、2012年の認知症高齢者は462万人だが、2025年には約700万人と高齢者全体の5人に1人になると推計されている。長寿化は認知症および要介護者の増加をもたらし、要介護リスクの高まりにつながるのだ。

要介護リスクを避けるために

最近のフィットネスクラブを覗くと、どこも元気なシニアの人たちであふれている。経済産業省の「特定サービス産業動態統計調査」によると、平成29年のフィットネスクラブの売上高は3330億円、延べ利用者数は2億5200万人と、増加の一途をたどっている。その背景には長寿化に伴うシニア層の根強い健康志向がある。

厚生労働省の「平成29年国民健康・栄養調査の結果の概要」をみると、運動習慣のある者(1回30分以上の運動を週2回以上実施し、1年以上継続している者)の割合は、全体で男性35.9%、女性28.6%だが、年齢階級別では60代の男性が42.9%、女性が29.6%、70歳以上では男性45.8%、女性42.3%に上る。男女ともに運動習慣のあるシニア層が多くなっている。

退職後も生き生きと暮らすには地域や社会との関係性を維持することが重要だが、定年後に社会的孤立に陥る人も多い。フィットネスクラブに通うシニア層には、身体的健康だけでなく、他者との会話やつながりを通じたメンタルヘルスが重要だ。長寿時代には体とともに心の健康が求められている。

重要な主観的健康寿命

幸せに暮らすためには健康寿命を延ばすことが重要だが、「自分が健康であると自覚している期間」(主観的健康寿命)にも留意する必要がある。『健康日本21(第2次)』によると、同期間は客観的健康寿命を下回り、2001年から2010年までの延びは男性で0.35年、女性で0.37年に過ぎないという。

人が幸せになる条件のひとつとして「健康」を挙げる人は多い。しかし、高齢化が進展すると加齢により健康状態が万全でなくなるのは当然だ。だれもが老化による衰えを経験する時代には、『なにがあっても健康でなければならない』という行き過ぎた健康志向に縛られないことが必要だ。

「人生100年時代」を幸せに生きるために、客観的な健康寿命を延ばす努力は当然すべきだが、同時に超高齢社会では何らかの健康上の制約があっても自らが幸せと思える主観的健康寿命が大切だ。65歳時の健康余命を意識しながらも、ケガや病気などともうまく付き合い、老化を自然体で受け容れ、上手に「老いること」と向き合う姿勢が重要ではないだろうか。

連載:人生100年時代のライフマネジメント
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文=土堤内昭雄

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