運転者を考えた「今年、最高の一台」はフランス製のスポーツカーだ

アルピーヌA110

A LIFE ON THE ROAD/自動車評論家が斬る「人生の裏道、表道」

30年以上の取材歴を誇る筆者。試乗する新車は年100台以上。
それが昨年、「5年に1台」の出会いがあったという。しかも、それは2017年に22年ぶりに復活した「伝説の名車」。
世界有数の自動車評論家を魅了した、その一台とは。



準備はよろしいですか?これからとあるクルマを遠慮なくベタ褒めしたいと思う。このフランス製のスポーツカーは5年に1台のクルマだからお許しを。

新型アルピーヌA110のブレーキを軽く踏み、ハンドルを適度に曲げてコーナーに進入するフィーリングと、コーナーからの急加速の気持ちは、まるでボウリングで10本のピンをドーンと倒してストライクをゲットするのと同じ気持ち。

あるいは、まるで18ホールのラフからピッチングウェッジでゴルフボールを打ってカップからわずか10cmほどの位置でボールを止めるのと同じ気持ちだ。つまり、アルピーヌのターボエンジンの素早いレスポンスと、コーナーでの素直なラインどりは期待以上の満足感を与えてくれる。すべてのコーナーが、ドライバーにとってのご褒美となる。

はっきり言って、僕が2018年に試乗した100台以上の新車の中で、最も刺激的、かつエキサイティングだったのがこのA110。ライバルのポルシェ・ケイマンやアウディTTよりも走り甲斐があると思った。ドライバーの欲望すべてに応えるからだ。しかも、世界で最も愛されているスポーツカーの一つであるマツダ・ロードスターと似たような重量にもかかわらず、パワーは70馬力ほど上回っている。

でも、同車の魅力とスペックを語り続ける前に、少し歴史を振り返ってみよう。1955年にフランスのレーシングドライバー、ジャン・レデレ選手は自分が優勝したアルピーヌ・カップから名前をとり、アルピーヌ社を設立した。

61年に巨匠のデザイナー、ジョヴァンニ・ミケロッティによって初代アルピーヌA110がデビューしたが、その息をのむほどの美しさに世界が圧倒された。そして、当初よりルノーのチューニングやレース仕様車を数多く手がけ、ル・マン24時間レースにも挑んだ。

73年にルノーに買収されたアルピーヌは、そのままA110でワールドラリー選手権などのレースで数多く優勝し伝説的なブランドになった。しかし、数台のモデルを世に送り出した後、95年に生産を中止。

それが17年に22年ぶりの復活を遂げるや、18年に新アルピーヌA110を手がけ、いきなり業界の誰もが絶賛するような1台として出す。文句なしのエンジンパワーもハンドリングも後で触れるとして、A110の外観は、初代のイメージを受け継ぎながらも独自の個性をプラスし、21世紀にふさわしいプロポーションの良いスポーツカーとして登場した。構造は初代と同じミッドシップ・エンジンなので、ショートノーズと短いオーバーハングが特徴的だ。


1995年の生産中止から22年後の2017年、伝説は復活を遂げた

パワートレーンは、ルノー/日産アライアンスで共同開発された1.8リットル直噴ターボエンジンを採用。スペックは252ps/320Nmと同エンジン採用のメガーヌRSよりも控えめだが、A110は車重1130kgしかないのでそのパワーは十分だ。

またシフトが気持ちのいいほど速い7速DCTを組み合わせているので、そのパワーを思う存分に叩き出していられる。アクセルを踏むと、ターボラグをほとんど感じないし、2000回転からのパワー感が見事。エキゾーストノートもよい味を出しているが、この手のスポーツカーだからこそ、もう少し存在感を主張し、乾いた低音があってもよかったと思う。
次ページ > 気分に合わせられる走り──

この記事は 「Forbes JAPAN 社会課題に挑む50の「切り札」」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

ForbesBrandVoice

人気記事