シネマの女は最後に微笑む

『君と歩く世界』に出演したマリオン・コティヤール(Getty Images)

先日、来年8月25日~9月6日に行われるパラリンピックの観戦チケットの価格と競技日程が発表された。22競技全540種目。22日からは、チケットの申し込み受け付けも公式販売サイトで始まっている。

回を重ねるごとに選手層が増し、大会レベルが高くなっていると言われるパラリンピック。車いすバスケや車いすラグビー、陸上競技やボート、柔道など、その戦いは何らかの欠損がむしろ武器になっているかのような印象すら与えるものだ。

車いすと言えば、1日に開かれた参院選後初の臨時国会に、れいわ新選組から初当選した、重度の身体障害のある参議院議員2人が大型の車いすで初登院したニュースも記憶に新しい。2人の議員活動にあたり、国会は議事堂をバリアフリーにするなど、受け入れ態勢を整備した。

身体的な障害は今、さまざまな角度から克服されつつある。

『君と歩く世界』(ジャック・オーディアール監督、2012)は、行き場を無くして彷徨う男と、偶然出会った女との関係を通し、「身体の欠損と過剰の交錯」を描いた佳作である。

女性が主人公の映画を選ぶ本連載「シネマの女は最後に微笑む」で、今回、男性が主人公のこの作品を取り上げるのは、「欠損」を抱えた女と「過剰」さの中にある男がいかにすれ違い、いかに再度巡り会うか、その中で女がどのように生きる力を身につけていくかが、ハードな場面描写の中にとても繊細に描かれているからだ。

幼い息子サムを連れて姉アナの家に転がりこんだ、ガタイはいいが貧しく無職のシングルファーザー、アリ(マティアス・スーナールツ)。アナ夫婦の暮らしも楽ではないが、二人は暖かく迎えられる。

クラブの用心棒の仕事を始めたアリがある晩、家に送ることになるのが、喧嘩して血塗れの女ステファニー(マリオン・コティヤール)。彼女の登場シーンが、その美脚からなのが象徴的だ。なぜならそれは、美しい脚を剥き出しにして男の目を奪うことを快楽にする奔放な女だということを示すと同時に、その脚は早晩欠損してしまうからだ。

事故は、ステファニーがシャチの調教師として華麗なショーを仕切っている最中に起こる。

膝下を失い車椅子の生活となったステファニーが、アリに連絡を取ったのは、何でもいいから孤独と喪失感を埋めるものが欲しかったからだろう。ステファニーの変わり果てた姿を見ても動じず、彼女を海岸に連れて行き、その前で泳いでみせるというアリの神経はなかなか図太い。それをネガティブに受け取らないステファニーの前向きさも素敵だ。

明るい南仏の光が溢れる中、ステファニーが波間でアリと戯れ、生き生きと泳ぐ一連のシークエンスは、生きる歓びに満ち溢れている。

大型量販店の従業員を監視し、解雇の口実を作るための隠しカメラを取り付けるという、ヤバい仕事の補佐を始めたアリ。そのボスは、格闘技経験のあるアリにムエタイの試合で稼ぐことを提案する。

殴り合い蹴り合いの凄まじい肉弾戦に、ステファニーは興奮する。彼女の「身体の欠落」に対して、そこにあるのは「身体の過剰」だ。アリは頭のてっぺんから足の先まで「闘う身体」と化すことで、その過剰さを抑え込んでいる。

文=大野左紀子

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