ビジネス

2019.08.28

社会課題がユニコーンを生む! スウェーデン「Norrsken」の挑戦

ストックホルムにあるシェアオフィス「norresken house」


そんなNorrkenの場と仕組みから、どのような企業が育っているのだろうか。

現在、Norrskenの会員企業のうち、収益を上げている企業は全体の30〜40%ほどで、多くがまだ発達途上にある。しかし、インパクトユニコーンを創出する全方位的な取り組みは、多くの企業を魅了し、常に入居の応募がある状態だという。

実際に、Norrskenの支援を受けて、世界で注目されているスタートアップ企業の例を紹介いただいた。

「Karma」という食品廃棄の削減を目指すフードテック企業だ。Karmaは、売れ残った割引価格の食品情報をユーザーに提供するサービスで、ユーザーは安価に食材が入手でき、レストランの収益が上がり、廃棄を削減できる、という循環を事業化した。利害関係者にウィン・ウィンの関係を作り出し、環境保護は営利にならないという従来の方程式を書き換えている。

もともと自社の技術をファッションの領域で活かすことに取り組んでが、Norrsken House のスタッフによるファシリテーションをきっかけに、その技術をフードロスという社会課題と結び付けることに方針転換したという。Norrsken での共創の好例だ。すでに、イギリスとスウェーデンでローンチし、多くの人に活用されている。

実は、Norrsken Houseはインパクトユニコーンを世に創出すために入居者に明確な「卒業基準」を設けている。入居期限を12〜18カ月と定め、専門家からの経営指導等をその期間で提供することで効果的な成長を促す。「卒業」してもらうための企業の成長のサポートを手厚く行っているのだ。

「社会課題解決」は遠い存在ではない

世の中には、Karmaのように技術力はありながら「社会課題解決」という視点が欠けているスタートアップが多くある。Norrskenは彼らに、「社会課題解決」をビジネスの起点にし、そこから成長をデザインするためのフレームワークや定例コーチングを提供しており、時にはKarmaのように事業のピボットも促す。

ただ資金と空間を提供するだけではなく、こうした仕組みやサービスも提供してしっかりと支援を行うことで、「経済と社会の双方に影響をもたらす卓越したインパクトユニコーンを創造する」というビジョンを実現しようとしているのだ。

「社会課題解決」というと、果てしなく大きく、どこか「意識が高い」、遠い存在の話だと思われがちだ。しかし、Norrksenは自身を変革の先駆者(Ambassador for change)として、決して悲観的にならず、そして力強く社会課題解決を語る。そして、これまで“稼げない”とされていた社会課題解決の取り組みを、ビジネスと両立させる。

健全な社会を目指したいというポジティブな熱意、高い技術を、有益な事業に結実させる。本当に持続可能な社会を作り出すための確かな実践がそこにはあった。


本記事の執筆担当者 >>多々納有希
2017年博報堂入社。早稲田大学国際教養学部卒業。大学在学時、デンマーク王国コペンハーゲン大学社会科学部留学中より現地デザイン・ブランディングエージェンシーにてデザインリサーチ、戦略立案、パブリックリレーション等に従事。その経験から北欧を中心とした海外とのコラボレーションプロジェクトを手がける。そのほか、企業や国立機関のビジョンやアクション開発、インナーマネジメントやCI開発などのブランディング、新規プロジェクトの共同開発運営、イベント企画運営、未来思考型プロジェクト、イノベーション支援、都市開発などの業務に従事。

文=多々納有希

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