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2019.08.22 20:00

粋な贈り物の思い出。「恋が叶う魔法のインク」から手書き文化に思う

イラストレーション=サイトウユウスケ

放送作家・脚本家の小山薫堂が「有意義なお金の使い方」を妄想する連載第48回。新番組「SUNDAY’S POST」で手書き文化を広めるための道具を一考した筆者。そこには過去にいただいた粋なプレゼントの記憶があった……。


4月から始まった日本郵便提供のラジオ番組、TOKYO FM「SUNDAY’S POST」で、宇賀なつみさんとともにパーソナリティを務めている。コンセプトは「手紙から始まる物語。」。リスナーから届いた直筆の手紙やハガキを読み上げたり、ゲストに手紙にまつわる思い出を聞いたり、手紙文化や郵便局を盛り上げる企画を考える「ポスト会議」を行ったりしている。
 
思い返せば、僕の放送作家としてのキャリアの始まりは「ハガキ整理」だった。大学1年生のときに文化放送でアルバイトを始めたのだが、ADとしての一番大切な仕事が、ハガキに目を通し、番組のコーナーごとに仕分けをして、作家さんに渡すことだったのだ。つまり年齢も性別も職業も趣味・嗜好も違うリスナーの書いたたくさんの投稿に目を通すわけで、必然的にネタの拾い方やテーマの選び方、読ませる文章づくりなどを自然と学んだ気がする。

当時の投稿のほとんどはハガキで、次第にFAXに。いまはメールや SNS が主流だ。それでも、SUNDAY’S POSTで「せっかくなので手紙で送ってください」と呼びかけたところ、毎週たくさんの手紙が届いて、正直驚いている。実はみんな手書きで何かを書きたがっているのだ、と僕は確信した。

手書きには個性がある。同じくパーソナリティを務めるFMヨコハマ「FUTURESCAPE」は20年続く長寿番組でもあるが、いまだにFAXで送ってくる人がいて、字を見た瞬間にどなたの投稿かがわかる。会ったことはないけれど、その人の顔(のイメージ)まで思い浮かぶ。手書きはそうやって読み手に対して想像を膨らませるという、メールやSNSにはない魅力が詰まっているとつくづく感じる。

オリジナルインクで自分を表現

趣味でもなんでも、最初に道具を揃えるとワクワクは倍増する。そこで僕は、手書き文化を広めるための道具はないかと考えた。思いついたのが、自分色のインクだ。

以前、脚本家の倉本聰さんに誕生プレゼントとして、万年筆とワインカラーのインクをセットでもらったことがあった。メッセージにはこう書かれていた。──この万年筆で脚本なんか野暮なものを書いてはいけない。ラブレターを書きなさい。これは恋が叶う魔法のインクなのだから──。そんな粋な贈り物の思い出もあって、暑中見舞い用のオリジナルインクをつくってみたらどうだろうかと思ったのだ。

僕と宇賀さんは蔵前にある「inkstand by kakimori」を訪ねた。ここでは17色のインクの中から好きな組み合わせで最大3色まで選び、自ら調合してオリジナルインクをつくることができる。

宇賀さんは「夕暮れの砂浜」ということでオレンジ系、僕は「夏の水たまりに太陽が映り込み、そこに青葉が一枚ひらひらと落ちる」ということでブルー系のインクを調合し、それぞれ「SUNDAY’S POST ORANGE」「SUNDAY’S POST BLUE」という名をつけた。近日中にお店でも販売する予定だ。

例えば自分の子どもが生まれたときに名前を決めるようにインクの色を決めてあげるとか、家族でそれぞれの色をつくってみるのも楽しいと思う。ご興味があったらぜひ行ってみてください。
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この記事は 「Forbes JAPAN 社会課題に挑む50の「切り札」」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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