ビジネス

2019.08.19

創造力を高める「事故」や「偶然」との向き合い方

Gettyimages


偶然と向き合わなければ、創造性は生まれない

「生活者の意識も変わる。それであれば我々も変わらなければならない」とは、 P&GのR&Dイノベーションオフィサー、キャシー・フィッシュ氏が世界最大級のテクノロジー見本市CES 2019で発した言葉だ。

そうして、通常はP&G内部に閉ざされたラボで行われている実験を、世界155カ国18万人の来場者が集まる場で公開したのだった。SK-Ⅱの蓋にセンサーを入れることでボトルをIoT化する実証実験プロダクトだ。


CES 2019でP&Gが展示した実証実験プロダクト

生活者の意識変化に適応していかなければいけないという「事故(=気付き)」を、フィッシュ氏およびP&Gが受け入れ、次の挑戦に向けた新たなヒントを得るための象徴的な行為だった。

ここで意地悪な読者からはこのような声が上がってきそうである。 「で、その取組は売り上げにつながったのか?」と。

実際に売り上げにつながった例は、パナソニックの社内新規事業創出プログラム『Catapult』から始まり、昨年度の内閣府オープンイノベーションを受賞したスタートアップ『ミツバチプロダクツ』などいくつも存在する。

しかし、多くの人々が持つ「先行事例を求める態度」も理解できる。そこで、メディアアーティスト藤幡正樹氏の作品が生まれた経緯とともに、その問いに対抗したい。

事故や偶然を楽しむこと

インテルやNTTなど大企業も積極的に関与するメディアアートの祭典『アルスエレクトロニカ 2013』。そこで優秀賞を取得した藤幡氏の作品『VOICE OF ALIVENESS』は、サイクリングする人びとの叫び声をデジタル上でモニュメント化する作品だった。

これは、南仏ナントの美術学校のディレクター、ピエール=ジャン・ギャルディンのバックアップのもと実現した。なぜ彼が藤幡氏をサポートすることになったのか。それは「前例が無い」ことをピエール=ジャン・ギャルディンが価値として評価したからだった。

「こんな企画はみたことない!クレイジーだ!ぜひ実現しよう」

そんな言葉から、制作に移ったという。これはアートの世界だから起きたことではない。 先日私は、創業から100年以上の歴史を持つ日本の素材メーカーを訪れた。

そこで新規事業担当役員が 「日本で新しいことを始めようとすると、先行事例や実績ばかりを求められてなかなか進まない。だから、ヨーロッパやアメリカで先行事例を作って逆輸入しようと考えている」と話していた。老舗企業でさえも前例のないことに挑み、ありえないものを生み出そうとしている姿勢を持っているのである。

新しいものを生み出すためには、事故や偶然を「楽しむ」耐性が必要だ。そのためにはいつもとは違った道を歩いてみたり、本屋に入って知らない本を開いてみたり、自分に新たな「気付き」を与える日々のレッスンをすること。すると、自然と偶然を引き寄せることができる。

アート界の巨匠、パブロ・ピカソも偶然を受け入れながら制作していたことは、ゲルニカの制作プロセスを追った『Dora Maar’s report on Guernica’s progression』から確認できる。



予定通りに進まないことにイライラしたり、事故にあって落ち込む気持ちもわかる。けれど、予想もしない出来事だからこそ得られる偶然や気付きを楽しみ、「事故」を経て得られる発見を楽しむ姿勢を、メディアアーティスト藤幡正樹氏の言葉から学んだのだった。

連載:ポリネーターが見る世界の景色
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文=西村真里子

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