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2019.08.19

創造力を高める「事故」や「偶然」との向き合い方

Gettyimages

先日、大怪我をした。 転倒し、左側頭部を8針縫ったのだ。部分麻酔が効いている状態なので痛みはそれほど無いが、耳の上を負傷したので、麻酔針が皮膚を通過するプチュッという音や、手術針が頭皮を通る音が聞こえる。なかなか生々しい体験だった。

「創造とは事故や偶然と向き合うことである」

医師に頭を縫われながら、メディアアーティスト藤幡正樹氏のこの言葉が、ずっと頭の中で反芻していた。「今の時代に必要とされる創造力のためには、事故や偶然が必要である」というメッセージは、藤幡氏を特別ゲスト講師に招き開催した 『Art Thinking Improbable Workshop』で語られたものだ。

その講義を聞いて一週間も経たずに、メタファーとしての「事故」が現実の「事故」として病室の私に考える機会を与えてくれた。


『Art Thinking Improbable Workshop』で講演する藤幡正樹氏

この手術を機にもっと創造力が高まればいいのに、と思いながら痛みに耐えたのだが、面白いことに、怪我をすることで今まで興味がなかった頭皮の役割に気付いたり、フランケンシュタインのストーリーが気になって調べるようになった。

すっかり忘れかけていた幼少の頃の手術や怪我の記憶も蘇ってきたし、心身ともに健康な状態で過ごす「あたりまえ」の日常では記憶の深海に沈んでいたものが再浮上し、改めて自分自身について考えることもできた。

痛みは辛いが、「事故」が自分の知識や気付きを増やしてくれる大切なものであることを実感した。同時に、「事故」や「偶然」など日常から飛躍できる瞬間をたくさん持つことが、自身の成長の上でも大切であることを身をもって体験したのだった。

予測可能なことは、今後人工知能が最適解を出してくれる。量子コンピューターをビジネスで扱えるようになると、その最適解に到達するスピードもあがる。 世界中で勃興するスタートアップと、彼ら自身のグロースや投資金額の世界的上昇によって、既存の事業は一気に過去のものへと追いやられてしまう。

そのような時代に人間が行うべきことは「予測不可能でありえない」ものを受け入れ、生み出し続けることではないだろうか。「ありえない」状況を受け入れ、新たな価値を生み出せるようになるためには、藤幡氏の「創造とは事故や偶然と向き合うこと」を日頃から意識しなければいけない。

ここでいう「事故」とは、私のように頭から血を流す事故ではない。言い換えれば「気付き」の瞬間である。
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文=西村真里子

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