VRの次は? リアルとバーチャルを融合させることが可能な「XR」の可能性

エンハンス代表 水口哲也

クリエイター水口哲也氏をお呼びして、VRというテクノロジーの本質を見つめ、未来に向けて取るべき姿勢を探る本対談。

第二回では『TETRIS EFFECT | テトリス・エフェクト』の話を導入部として、「21世紀は体験の時代になる」という水口氏の主張の核心に迫りたい。VRを包括する「XR」(Extended Reality)によって具現化する新たな「体験」とは?

いよいよ、体験の送受信の時代が始まる

武田隆氏(以下・武田):家庭用ゲーム機やPC、モバイルで本格的にVR体験ができるようになりました。水口さんはかつて、「ゲームの世界を全方位3Dのイメージで構築しているから、その無限に広がる世界を、2Dで四角い画面の中に閉じ込めるのが嫌だった」とおっしゃっていましたが、そんな「水口さんの頭の中」にいよいよテクノロジーが追い付いてきた。

水口哲也(以下・水口):2010 年にキネクトを使った『Child of Eden』という作品を発表したんですが、ここが限界でした。これ以上四角いTV画面でゲームを作ることはできないと感じて、いったんゲームのクリエイションから距離を置くことにしました。ちょうど自分の考えをまとめたり、じっくり教えたりもしたかったので、2011年から慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科で特任教授をしながら、全く別の業界の方々と交流していました。

武田:その間に登場したのがVR技術だったというわけですね。

水口:2013年頃にアメリカ発でVRが再び盛り上がり始めた頃、そのタイミングで、頭の中にあった『Rez』の世界を実現しようと火が付いたんです。それからすぐに、アメリカでEnhance(エンハンス)という法人を立ち上げました。日本ではまだ「VR?」という感じだったので、アメリカで起業した方が早いと思ったんです。

武田:2016年に『Rez Infinite』をリリース、そして2018年の『Tetris Effect』と続きます。ここで驚いたのは、エンハンスは、コンテンツ開発のみならず、パブリッシングも行っているということ。スタートアップはどのようになさったのでしょうか?

水口:最初は、誰にも言わずにこっそりと(笑)。自分のお金をつぎ込んで、足りない分は借金して起業して、少人数でスタートしました。1年半くらいプリプロダクションを続け、その後、資金調達をして、開発チームを組織して、2016年10月のPlayStation VRのローンチのときに、『Rez Infinite』を発表しました。

武田:ゲームはハードがヒットするかわからないから、ソフトはメーカーが用意することが多いですよね。でも水口さんは資本を投入して最初のソフトを作った。

水口:僕は結構最初にやりますね。最初に飛び込むのが好きなんです。PlayStation Portable(PSP)が出た2004年のローンチには『ルミネス』という音とパズルを融合したゲームをリリースしました。

武田:なぜ、ビジネスの常識では危ないとされる橋を、率先して渡るのですか?

水口:「新しい体験」のインスピレーションを大事にしているからです。ハードが進化すると、新しい体験を生み出すことができますからね。大きな会社はそのリスクを取らなくなるけど、僕らのようなサイズだったら、好きなことを楽しくやっていける。

僕らは開発もマーケティングも少人数だけど、いまや世界中にデジタルパブリッシングが可能だし、昔のようなストレスはありません。自分たちで資金調達して、セルフパブリッシングが可能です。

『Rez Infinite』からやっと、初めて穏やかな気持ちでリリースできた感じがします。VRで表現の自由度が上がり、頭の中のイメージが、そのまま作品に近づいてきています。VRは、体験ですよね。だからエンハンスは、体験の創造やパブリッシングをしている会社だと思っています。そのうち、体験の送受信とか、新たなこと を手がけていきたいです。
次ページ > お笑い芸人・オードリーがラジオで話していたこと

文=武田隆

ForbesBrandVoice

人気記事