ビジネス

2019.08.19

20億本のナッツバーを売った男が語った 対立する民族をビジネスでつなぐ方法

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15年4月、ルベツキーはFDA本部に「ヘルシー」の定義変更を求める請願を提出。翌年5月にFDAは決定を破棄し、カインドは自社の商品を再び「ヘルシー」と呼べるようになった。

現在、推定8億ドルの売り上げを誇るカインドだが、向かい風も強い。スナックバーの市場規模は、カインドが創業した04年には60億ドルだったが、現在では136億ドルに拡大。17年にケロッグが6億ドルで買収したRXバーをはじめとするライバルがシェアを侵食し始めている。市場調査会社のミンテルによれば、カインドの売り上げの伸びは16年の推定11.6%から、17年の5.4%へと鈍化している。

「世界に最大級の還元を」

荒波を乗り越え、16年に同社は「より親切で共感的な共同体を育むため」として、カインド財団を創設した。最新の開示資料によれば、財団は1100万ドルの資産をもつが(そのうち1000万ドルはルベツキーからの寄付)、これまでに交付した助成金は150万ドルにとどまっている。17年になってやっと、財団は世界中の学生たちをつなぐために、少なくとも3年間で2000万ドルを支出すると約束した。

17年11月、M&Mやスニッカーズの製造元であるマースが、カインドの推定40%の持ち株を買収した(金額は非公表)。このままマースがカインドを完全に買収すれば、ルベツキーが再びヒューマニズムに情熱を傾ける時間が増えるかもしれない。

いま彼に最も気がかりなことは何かと尋ねれば、アンチ砂糖派からの攻撃でもライバルのRXバーでもなく、世界の現状だと答えるだろう。「移民として、またホロコーストを生き延びた者の息子として、私は法の支配があって当然のものだとは思わない」と、彼は言う。「世界各地で全体主義的な政権が勃興していることや、ナチズムやファシズム、憎悪や差別が息を吹き返しているのを見ると、心から心配になる」。

現在、カインドの企業価値は少なくとも29億ドル。その過半数を握るルベツキーの持ち分は15億ドル近い。

「カインドの成長と成功で、私は信じられないほどの贈り物を授かってきた。いまは偉大な思想や人々を育み、世界に最大限の還元をもたらしたいと考えています」


ダニエル・ルベツキー◎1968年、メキシコ生まれ。父はホロコーストを生き延びたメキシコ系ユダヤ人。10代でアメリカに移住。スタンフォード大法科大学院を卒業し、2004年カインドを創業。オスカー常連の撮影監督エマニュエル・ルベツキはいとこにあたる。

カインド◎チョコレートやハチミツを使った24種のナッツバーを展開。累計販売数は20億本を超える。2017年、M&Mやスニッカーズの製造元であるマースが、推定40%のカインド持ち株を買収(金額は非公表)。

文=エンジェル・オーユン 翻訳=町田敦夫 編集=杉岡 藍

この記事は 「Forbes JAPAN 社会課題に挑む50の「切り札」」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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