アメリカの買い物客は、時間に大きな価値を置いていて、時間を無駄にしたがらないのだ。仕事では、スケジュールアプリに従って行動しているし、スマホに入っているそうしたアプリは15分刻みになっている。
いまこそ、スーパーマーケットのデザインを改めるべきだ。買い物リストに25品目しか書かれていない客が、そのすべてをかごに入れるために、4万点もの商品の前を通る必要があるだろうか。買い物リストを忘れた気の毒な客は、リストの中身を思い出すために、売り場を隅から隅までゆっくりと歩き回らなくてはならないのだろうか。
こうしたことを書くと、多くの食料品店は憤慨し、衝動買いをしてもらえなくなると心配するだろう。しかし実際には、店舗デザインを新しくすることが、買い物客に、ネットで食料品を買わずに店舗に足を運び続けてもらうための最も重要な方法のひとつになるかもしれない(スーパーマーケット経営者の多くは、消費者が食料品をネットで買うようになるのではないかと考え、眠れぬ夜を過ごしている)。
チャンとベックの主張は両方とも、非常に説得力がある。食料品店はこうした主張を警鐘としてとらえるべきだ。小売店の多くは、店舗を改装して、買い物体験を向上させている。また、グローサラント(Grocerant、グローサリーとレストランを合体させた語、店内で販売している食材を調理した料理が食べられる飲食スペース)を設けたり、総菜の販売を増やしたり、サービスカウンターやアメニティ設備を増設したりしている。
そうすることで、店舗の魅力は確かに増すかもしれない。しかし、商品陳列の方法は相変わらず同じで、通路が何列も並んだ状態は変わっていない。それよりも、まずは買い物客を念頭に置こう。たとえば、店舗を1日の習慣に応じた構成にしてみるのはどうだろうか。朝食売り場、昼食売り場、夕食売り場、軽食売り場に分けてみるのだ。
重複する商品はあるだろう。たとえば牛乳などは、4つの売り場すべてに置くことになるかもしれない。すべての食品をグループ分けすることで、買い物客はきっと時間が節約できるようになる。意外にも、何百回も目の前を通り過ぎていながら、「きちんと見たことのなかった」商品にもっと目が向くようになるはずだ。
こうした店舗形態が実は、衝動買いや新しい商品の発見につながると私は考えている。また、朝食を抜く人、昼食を外食で済ませる人、社食で食べる人などさまざまな買い物客が、時間を大幅に節約できるようになるだろう。
これからも消費者たちに食料品店で買い物してほしければ、買い物体験を大きく改革すべきだ。表面だけでなく、本質の部分を変えるのだ。