あなたの精神状態がすぐに分かる方法がある。それは「部屋を観る」ことだ。
といっても家の形や豪華さではない。注目すべきはその「散らかり具合」である。分かりやすいのは、気力が無い時だ。
そもそも気力が無い時は掃除や片付けが出来ない。動くエネルギーが無くなるからだ。気力が無くなってゴミを出せなくなった患者さんを診たことがあるが、日常には他にも洗濯、洗い物から公共料金の支払いまで心のエネルギーが必要な作業がある。
人の精神の力が無くなってくるとゴミを出すのが億劫になりゴミ屋敷化すると聞いたことがある。私は診察したことはないが、ひどくなると排泄することさえエネルギーが足りなくなり、手近のペットボトルで用を足す人がいるのだという。
前提として、自分の精神状態を客観的に把握することは難しい。しかし、自分が精神的に健康なのか負荷がかかっているのかを知ることは仕事を進める上で重要だ。
航空機の操縦中にコックピットのメーターに飛行機の姿勢、計器にスピードが表示されるのと同様に自分の心の状態が客観的に分かれば「精神力に余裕もあるし、ちょっと残業しようかな」という判断もできる。
精神にはいわゆる正常値なるものは無い。しいて言えば質問紙法で鬱や神経症などが分かるとされおり、私も患者さんに使ったことがある。また、最近では脳内の電流を測ったり、神経伝達物質を測定することで心の状態を把握しようと努めているようだが、残念ながらそれで全容が分かるわけではない。
そもそも心の場所は今でもわからないのだ。学者によっては「心は脳全体のネットワークの働きである」などという説を唱える人もいるが……。
続いて、最近明らかになった知見を使ってあなたの精神状態を観察してみよう。
キッチン周りの洗い物は溜まっていないだろうか? 実は、これは精神力が低下した際に最初に現れるサインなのだ。
パートナーが家にいてキッチンを担当してくれている場合はパソコンのデスクトップの画面を見てほしい。デスクトップと心は同じだ。雑多なアイコンをフォルダに整理せず放置してデスクトップ上がアイコンだらけになっている状態はシンクに洗い物が何日も放置されているのと同じ傾向にある。
友人の禅僧が教えてくれた。日常の所作がその人の精神状態を示すと。玄関で靴を揃える人とそうでない人とは精神力が違うらしい。修行では生活の細かいところまで規則が決まっている。箸の上げ下ろしからトイレまでだ。数年して規則が身につくと心が整理できるのだという。逆のケースを想像してほしい。はじめて上がるお宅の玄関で靴が散らばっている人はどんな人か。
誰も見てない所で靴を揃え続けるだけでも精神状態が安定する。そしてそれがビジネスにも良い影響を与えるだろう。
さくらい・りゅうせい◎1965年、奈良市生まれ。国立佐賀医科大学を卒業。元聖マリアンナ医科大学の内科講師の他、世界各地で診療。近著に『病気にならない生き方・考え方』(PHP文庫)。