スマホを駆使して、正確に病状を把握したとしても、それを治療できるかどうかは、よほどの富裕層でなければ、確信が持てないだろう。
また、「巻頭言」を記した金正日総書記は健康に気まぐれだった。若い頃は、コニャックやウィスキーなど度数の強い酒が大好きだった。糖尿病などが悪化した後は、ワインに切り替えたが、ブルゴーニュの高級ワインがお気に入りだったという。
2008年8月に脳卒中で倒れると、再発を防ぐために医師団のアドバイスに従って減量を敢行。80キロ以上だった体重を20キロ以上落としたとされるが、金正恩氏への権力後継作業が軌道に乗った後は、安心したのかまた元の体形に戻った。
愛煙家だったが、健康を考えてか禁煙を敢行。その際は、周囲も一斉に禁煙に走らざるを得なかった。毎年春に行われる世界禁煙デーでは、平壌で討論会も開くようになった。娯楽の少ない北朝鮮で、酒とタバコは数少ない庶民の楽しみだ。まさに「宮仕えはつらいよ」を地で行くような出来事だった。
そして、金正恩氏だ。当初は70キロから80キロ程度だったとみられる体重は、「祖父の金日成主席の雰囲気に似せるため」という政治目的のもと、どんどん増加。途中からは、権力を維持するための極度のストレスも加わり、正恩氏の過食が止まらなくなったという。
今ではその体重は130キロとも言われる。米放送局の知人によれば、朝鮮中央テレビなどが伝える金正恩氏の演説には、細かな修正が数多く施されている。知人は「途中で息がつづかないから、頻繁に休憩を入れているのだろう」と語る。
別のワシントン在住の北朝鮮専門家は「金正恩氏の権力基盤は安定している。経済制裁も北朝鮮政権を倒すまでには至らないだろう。正恩氏にとって唯一の懸念と言えば、健康だ。ここ数年で、正恩氏の健康状態が急速に悪化する可能性だってある」と予測する。
健康も金次第。スマホを楽しむ富裕層には、健康を気にするだけの余裕があるのだろう。だが、北朝鮮最大の富裕者である金正恩氏にとって、健康こそが最大の懸案であるとは、何という皮肉だろうか。