小暮昌弘(以下、小暮):今回は、紳士淑女の嗜みというタイトルにふさわしい「帽子=ハット」がテーマですね。
森岡弘(以下、森岡):実は私、この夏から帽子を被ろうかと思っていたところなんですよ。
小暮:それはどうしてですか?
森岡:眼鏡もそうですが、自分に似合っているかわからないけれど、どうしてもこのアイテムを楽しみたいときってありますよね。私にとってハットはそんな存在なんです。
小暮:私もキャップは被りますが、ハットはほとんど未経験。昨年、ロンドンの老舗帽子店を取材したときに、頭の形やサイズを専用の機械で計測してもらい、チャーチルも被ったボーラーハットを試してみたのですが、断念しました。店の人は似合うと言ってくれたのですが、自分ではそう思えなくて(笑)。やはりハットが似合うようになるには、年季や慣れが必要だと思います。
森岡:今回取り上げるのは、イタリアの老舗帽子ブランドのボルサリーノです。
小暮:昨年、来日したボルサリーノのCEOのフィリップ・カンペリオ氏にインタビューをしましたが、日本はイタリアに次ぐ売り上げで、とても重要な市場だとおっしゃっていました。私の知り合いでもハットを被るならばボルサリーノと指名買いする人が本当に多いですからね。
森岡:アラン・ドロンとジャン=ポール・ベルモンドが共演した映画のタイトルになるくらいボルサリーノの名は世界的に有名。映画『ボルサリーノ』の公開は1970年。もちろんブランドの創設が先ですよね。
小暮:もちろん先ですよ(笑)。創業は1857年。創業者はジュゼッペ・ボルサリーノという人物で、イタリアのアレッサンドリアという街で生まれました。
森岡:確かいまでもその場所に工場をもっているのではなかったでしょうか。
小暮:カンペリオ氏も「原材料から製品づくりまで手がける世界でも稀有なハットメーカー」と語っていました。『ボルサリーノ物語』(出石尚三著 万来舎刊)によれば、とある辞書にはボルサリーノのことを「広縁の柔らかいフェルト製の男子帽」を意味すると書かれているとあります。まさにソフトハットの代名詞的な存在。