日本の産後は異常事態 ママたちを苦しめる「暗黙の了解」


東京大学名誉教授の養老孟司氏は、著書「バカの壁」で、ある夫婦の妊娠から出産までを追ったドキュメンタリー動画を学生に見せた際のエピソードを挙げています。

女子学生が「新しい発見がたくさんありました」と言う一方、男子学生は「こんなことはすでに保健の授業で知っていることばかりだ」と言ったというのです。

養老氏は、男子学生は、常識や前提となる情報にとらわれ、「わかっている」と思い込んでいるのだと言います。そして、自分にとって興味のある情報しか見ようとせず、かつニュースなどを鵜呑みにして「わかったつもり」になっている人が多いと指摘します。

元幼稚園教諭で玉川大学教授の大豆生田啓友先生は、子育てメディア「コノビー」の記事(子育てに自信があった僕は、妻の一言で目がさめた:2018年1月15日)に、ご自身の体験を書いています。

幼稚園で保護者に対して、「お母さん、もっとこうしたらいい」「お母さん次第で、子どもはいくらでも良く育ちます」と指導し、自らをイクメンのはしりだと思っていたところ、自分の奥さんから「子育ては、ほとんどやっていないのに」と言われてショックを受けたそうです。

また、一般社団法人「Papa to Children」代表理事の川元浩嗣氏は、日経ビジネスの記事(イクメンは終わった。では次世代パパとは?:2018年8月21日)で「妻が産後に実家から帰ってきて、怒濤の育児が始まったわけですが、妻がおむつ替えをして子どもを寝かしつけていた時、僕はコミック誌を読んでいた(笑)。それだけで妻からすれば殺意が芽生えると思うのですが、加えて妻が授乳する時に使うクッションを膝の上に置いて読んでいたという(笑)」と振り返っています。

子どもと接触が多い、あるいは教育関連の意識の高い人たちでもこうなのです。そうでない男性がどうなのか、推して知るべしです。



社員を変動費ゼロの固定費(同じ給料を払うならコキ使え)とみて酷使する会社をブラック企業と呼んだりしますが、母親を固定費(頑張らせても追加で金はかからない)とみて育児を丸投げしている「ブラック家庭」では、ブラック企業と似た問題が生じる可能性があります。コスト(=犠牲)を払っていることを忘れてはいけません。産後うつや自殺はそのひとつの現れでしょう。

母親を苦しめる「暗黙の了解」

問題は父親や男性だけではありません。女性を含む日本の社会全体に母親に厳しい空気が漂っています。

3人の子供を産んだある女性は、宗教のようなおかしなプレッシャーがあると言います。また、海外経験のある女性は、日本の独特の空気に呑みこまれないように度々気をつけていたと語ります。

日本では、さまざまな暗黙の了解と、それを盾にした勝手な(親切心かもしれない)言動が、まかり通っています。

暗黙の了解には、「ママが頑張るのが当たり前」「(シッターなど)他人に子供を預けるなんてけしからん」「母乳が必須」などがあります。勝手な言動とは、軽々しい批判、押し付け、一方的な説教、リクエストや命令などです。それが直接言われるだけでなく、最近はネット上でも多数みられます。
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文=本荘修二 写真=Getty Images

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