──この「スクラム」マネジメントの手法は他企業で取り入れても上手くいくとお考えですか?
スクラムを取り入れたから良いということは無く、それぞれの企業に合わせた最適な組織構造から考えていくことが重要だと思います。
例えば、営業系や生産系の会社では「ピラミッド型」の組織が非常に効率的にワークします。社長も各部門のトップに「予算と期限はこれで、この結果を出せ」と指示さえ出していれば良い。
一方で、GROOVE Xの開発部門のように、よく方針が変わるようなケースでは「スクラム」などのアジャイル開発手法の方が機能する場合が多いかと思います。
これは何故かというと、たとえば「ピラミッド型」組織では、セクショナリズムと呼ばれるような、自セクションを守るような動きが生まれます。そして、結果的に方針が変わる度に自らの領域を“狭める”方向に組織は動きます。
その対策として必要となるのが組織と組織の境界と守備範囲をきちんと定義する「ルール」です。「この仕事はそちらの組織の管轄です」といったものですね。これによって、組織と組織の間を埋めることができていれば、「ピラミッド型」組織でも何の問題もありません。
ただし、一つだけ落とし穴があって、先ほど申した通り、よく方針が変わるような企業では、「ルール」が決まっていない範囲が頻繁に出現します。そして、しばしばそれは見過ごされてしまう。気付いたころにはお互いその部署間の隙間は拾わないと心に決めてしまっていて、誰も前向きにフォローできなくなり、組織間の亀裂が生じるといった事態が起こるわけです。
その点、スクラムのように責任分解点を流動的にし、仕事の期限にも幅を持たせるような組織運営であれば、タスクに安心して取り組めるので、変化への対応力が高く、組織間の亀裂が出来にくくなります。
でもトップダウンで引っ張れず、自律的な行動に任せるスクラムで成果を本当に出せるのか、というと、そこはメンバーのモチベーションをあの手この手で上げ続けるしかない。誰か特定の人に指示を出したり、叱ったりしていれば済むということはないため、結果的に経営者にとっては非常にタフな組織マネジメントスタイルとなります。
事業方針がよく変わるような会社で、かつ経営者がタフなマネジメントを求められることを覚悟できるのであれば、スクラムのようなマネジメント手法も選択肢にあるのではないでしょうか。
──お話を聞いていると、トヨタ、ソフトバンクと全く畑が違う組織を経験された林さんだからこそいきついた答えのように思います。
そうですね。トヨタとソフトバンク、あんなに社風が違っているのに、組織として起きる問題は一緒なんですね。そうなってくるとこれは決して誰かが悪い、ということではなくて、人間の集団行動における組織システム上の問題だと思ったんです。
一方で、スクラムを始めとしたアジャイル開発で上手くいっている組織がアメリカにはある。そして実はこれらの組織論は元々日本から生まれたものなんです。 日本の高度成長期に上手くいっている会社の解析をしたものを野中郁次郎氏(日本の経営学者)がまとめ、ハーバードビジネスレビューに投稿したことがきっかけになって生まれました。
アメリカでは体系化されて実践されていったのに、日本は自らの成功例を体系化する事はできず、結局今になって逆輸入のような形で展開されはじめているわけです。日本の企業もいまいちど、組織論について真剣に考えるべきだと思います。
連載:起業家たちの「頭の中」
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