マネー

2019.08.17

三姉妹で「家の味」を継承する、昼のみ営業のパリの食堂


その日から、私は毎週「オ・バビロン」に通った。店に入り、1人です、と伝えると、好きなところにどうぞ、と言われる。暑くて喉が渇いていると私は炭酸水を頼むけれど、周りのテーブルにはいつだってキャラフ・ドーが置かれている。

前菜は同じ顔ぶれで、日によって5〜8種類になるメインはその半数かそれ以上がロースト料理だ。付け合わせには必ずジャガイモの何かがつく。ピュレかグラタン・ドフィノワ、もしくはただ蒸したもの。他にもオーブンで焼いた野菜が添えられることがあって、そうすると野菜の焼き汁が皿に広がる。



肉にも焼き汁がかかっていているから、ふたつの汁は混ざり合う。それがまさに家でのごはんのようで、かつ、おいしいのだ。デザートは、日によって果物が入れ変わりながらもクラフティがいつでもあって、キャトル・キャールや、プルーン入りのケーキが用意されていることもあった。

父から母、そして三姉妹へ

3度目くらいに訪れた時だろうか。料理が運ばれてくるのを待っていたら「あなた、本当にその髪型も、色もよく似合っているわね」とサービスを担当している2番目の姉に言われた。この店は三姉妹で切り回している。初めて来店した折に迎えてくれたのは、末の妹だ。デザートは彼女が全部つくっている。

そして、双子かと思うほどに(間違えるお客さんは多いらしい)彼女とよく似た姉が真ん中で、少し年の離れた一番上の姉は、料理全般を担当している。2番目と3番目ほどではないけれど、誰に紹介されなくても、「お姉さんですね」と確信できるくらいには似ている。

「オ・バビロン」は、彼女たちの父親が1950年にオープンしたそうだ。当初、料理をつくっていたのは、父親の姉。やがて父親が厨房に立つようになり、その頃、近くで働いていた、後に母親になる女性は、客として食事に来ていた。そして、いつしか父親と恋に落ち、結婚をすると、今度は母親が料理をつくるようになる。

その母親も、2年半前に天国へ旅立った。それを機に、13歳の時から店を手伝っていた一番上の姉に妹たちも合流して、今は三姉妹で店を切り盛りしている。彼女たちの他には、厨房で手伝うスタッフが1人いるけれど、サービススタッフが誰かいるわけでもなく、どこまでも家族経営だ。
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文・写真=川村明子

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