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2019.08.16

2020年 令和時代の地方に必要なのは、「編集力」と「遊動」だ

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成功している地方にはいくつかの共通点がある。先見性とおしゃれさを兼ね備えたリーダーの存在、地域の役場と地元企業の連携、誰が見ても洗練されているデザイン性の高いアイコン的な造形物の存在、そして地域の内外の人が喜んでお金を落としていく仕組みなどである。

あと、しゃれたカフェの存在も必須だ。人が集まりくつろげるおしゃれな場所が地域の内外の人が集う接点になり、都心の人にとっても地方で安心できる場所になる。おしゃれなカフェというのが都会と地方をクロスオーバーする。過疎化の進んでいる北海道で人口を伸ばしている東川町は、そういったカフェの存在が少投資でいかに人を引きつけるか、を熟知しており、優良な古民家が出てきたら町が買い取り、カフェをやりたい人に手をあげさせて、廉価で貸し出し、街に活気や華やぎを与えていく。

働き方改革が進み、テレワークが徐々に一般的になってきた。週2日テレワークで在宅勤務が可能であれば、都会で勤務している人は土日を加えれば週に4日は十分に地方で暮らすことができる。どうせ住むなら、都会から離れて美しい自然やおいしい空気や水のあるところを選ぶ人が増えていくだろう。自動運転がもし実現すれば、移動コストも大きく下がるはずだ。
 
それにより、二拠点生活や多拠点生活が可能になっていく。これは地方にとっては大きなチャンスである。地方には人口流出による空き家問題という難題があるものの、多拠点生活が進めば、そのような問題も解消されるだろう。人口が減っても、人の移動が増えればいいのだ。これをグラフィックデザイナーの原研哉さんは「遊動」と呼んでいる。

多拠点生活が進んだとしても、多くの人がアクティブに通えるのは1カ所からせいぜい5カ所が限度だろう。まあ実際は3カ所ぐらいではないか。そうなると地方にとって重要なのは、人の関心をどうすれば集められるか、ということ。それぞれの人のマインドシェアを獲得する競争が始まるのだ。ぼんやりしていて、少しもマインドシェアを取ることができない地方は衰退を免れ得ない。総務省は「関係人口(地域外の人口)」を増やすという言い方をしているが、それはマインドシェアを取ることとほぼ同義である。

考えてみてほしい。都会で平日は厳しい通勤ラッシュに苦しみ、不健康な生活を強いられている多くの人たちにとって都市部を離れ、家族と長く過ごし、ラッシュと無縁の生活をしながら新鮮な空気や水や食材に囲まれて過ごすことができるのは大きな喜びであろう。そうすれば通勤ラッシュも緩和されていくはずだ。都市生活そのものも快適になってくる。
 
さまざまな地域で美しい海や山を見て暮らしながら、都市部で刺激的な生活も送る。そのような生活がふつうになる社会がもうすぐそこに来ている。その気になれば今日からでも可能だ。

そのような未来が訪れることは、不安よりは喜びではないか。そうなると、それに適応する新しい産業も生まれてくるだろう。だからこそ、私はむしろ未来が楽しみで仕方がない。投資家としてその流れには大いに賭けたいし、それは幸せが広がる世界観だと思う。


ふじの・ひでと◎レオス・キャピタルワークス代表取締役社長。東証アカデミーフェローを務める傍ら、明治大学のベンチャーファイナンス論講師として教壇に立つ。著書に『ヤンキーの虎─新・ジモト経済の支配者たち』(東洋経済新報社刊)など。

連載:カリスマファンドマネージャー藤野英人の「投資の作法」
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文=藤野英人

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