ロシア鉄道博物館で目撃したシベリア横断鉄道の歴史

博物館にはソ連時代のユニークなデザインの機関車が並ぶ

7月中旬、白夜の季節を迎えた、ロシアのサンクトペテルブルグを訪ねた。帝政ロシアが築いた美しい世界文化遺産の建築群と運河の街は、1990年代初頭のソ連解体で一時期かなり疲弊していたが、近年は海外から多くの観光客が訪れ、賑わいを見せている。

ロマノフ朝の膨大なコレクションを収蔵したエルミタージュ美術館や郊外に点在する夏の離宮をはじめ、いくつもの観るべきスポットはあるが、個人的に興味深かった場所をぜひ紹介したい。

それはロシア鉄道博物館だ。以前は別の場所にあったが、2017年10月に元ワルシャワ駅の跡地(現在のバルチースキー駅の近く)に移転してリニューアルオープンされた。

いまはなきワルシャワ駅は、1853年に開業したサンクトペテルブルク・ワルシャワ鉄道の起点で、ロシアからヨーロッパ方面へと初めて敷かれた鉄道の始発駅だった。帝政ロシア時代の対ヨーロッパ玄関口というシンボル的スポットでもある。

博物館の施設は、駅の跡地の広大な車庫を改装したもので、U字型の館内の中心に元あった転車台(鉄道車両の方向を変えるターンテーブル)が展示されていて、これがひとつの目玉となっている。


館内の中央部に巨大な転車台が配置されている

シベリア横断鉄道の歴史に関する著書もあるライターの藤原 浩さんは「帝政時代からソ連時代、そして現代に至るまで、ロシア史に大きな役割を果たした鉄道の貴重な車両が数多く展示されていることがこの博物館の魅力」と話す。

軍事車両の展示もある

ロシアで最初の鉄道が開通したのは、ここサンクトペテルブルクが起点で、1837年のこと。当時から今日に至る蒸気機関車やディーゼル車、貨車、客車、寝台列車のほか、さまざまな鉄道機器のサンプルが置かれている。

こうした常設展示に加え、企画展や講演会、子供や10代の若者向けの教育プログラム、映画上映、ワークショップなど、さまざまな催しが用意されている。日本の鉄道博物館とは発想やスケールが違うと思われるのは、旅客や運輸部門だけでなく、ソ連時代に開発された軍事車両の戦闘鉄道ミサイルシステムなどの展示もあることだろうか。

この博物館には日本と所縁がある、数奇な運命をたどった客車も展示されている。1903年に開通した東清鉄道、すなわちシベリア横断鉄道がウラジオストクに向かう最短ルートとして、当時清国だった満洲平原を走り抜ける路線で使われた、豪華ワゴン車両だ。


1990年代当時使われていた寝台車両の展示もある。かつてシベリア横断鉄道でヨーロッパに旅立った人には懐かしいかも
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文・写真=中村正人

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