多くが夢ついえ、あるいは多くの者がなきがらとなって戻る中、財をつかんだ一握りの幸運な者たちが財をつかみ凱旋した土地だった。
そんな歴史を持つシアトルであるが、現在は、かつてとは全く違う顔を見せている。
古くはボーイング、マイクロソフト(マイクロソフトを古参と呼ぶことにはやや抵抗があるものの)、今はアマゾン、スターバックスといった多くの世界的企業がひしめく、アメリカでももっとも成長著しい街である。あたかもゴールドラッシュのころの賑わいを再現するかのごとく多くのスタートアップが生まれ、多くのエンジニアやベンチャーキャピタルが集う街。それが今のシアトルの素顔だ。
多くの世界的企業がひしめく街、アメリカ、ワシントン州シアトル市をウェストシアトルのアルカイビーチからのぞむ
「トランプ効果」で入国審査に『2時間半』!
筆者がそんなシアトルに、日本経営合理化協会主催の「シアトルイノベーションツアー」団長として参加したのは、令和元年を迎えたこの6月のことだった。
雨季が明け、新緑とたくさんの花が咲き誇る、最も美しい時期にシアトルを訪問し、世界的企業として名を成した大企業から、これから育っていこうというスタートアップ企業までを訪問する、というのがツアーの趣旨。様々な体験があったそのツアーの1週間をシェアしたい。
シアトル-タコマ国際空港に着いてまず驚いたのが、入国審査にかかる時間だった。ほかの都市がどうなのかわからないが、最長「2時間半」。これもトランプ政権の移民政策の代償とのことだが、合理的で生産性を重んじる国として知られるアメリカがこの状態を放置しているという事実は、到底受け入れられるものではない。
ずらっと並ぶアマゾン機━━専用空港構想も
2時間半の「忍耐力テスト」を無事潜り抜け、シアトル市中に向かう。道すがら、貨物ターミナルの横を通り過ぎる時に見れば、白地にブルーで「Amazon Prime」のロゴが全面に書かれた貨物専用機が何機も停まっているではないか。これらは、アマゾンの有料会員であるプライムメンバー向けの貨物を輸送するためのアマゾン専用機、数年前には見ることもできなかった光景だ。
現在、アマゾンでは2021年までに70基の専用機を全米中で運行する予定とのこと、専用空港の構想も出ているという。
実はアマゾンは、2007年のクリスマスシーズン、北米西部の全ての貨物機のスペースを使い切ってしまった。その年、クリスマスシーズンに毎日行われている戦術会議で、ある人がその惨状を嘆いて「こんなに飛行貨物を使うなら、自分たちで飛行機飛ばしたほうがいいなあ」と言ったそうだ。