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2019.08.26 16:00

時間はどこからやってくる? 起業家・成瀬勇輝の時計論

“旅”をテーマに、前例にとらわれずにビジネスの世界を切り開く成瀬勇輝。現在は仲間と共に、改良した大型バンで暮らすノマドライフを実践中の彼は、時間にとらわれない生活を送る一方で、時間とは何かと深く考える。


これからの旅には“物語”が必要だ

旅を伝える、そして旅をサービスするメディアを作りたい。そう考えた成瀬勇輝は、23歳のときにモバイルメディアの「TABI LABO」を立ち上げ、2017年にトラベルオーディオガイドアプリの「ON THE TRIP」をスタートさせた。

「『旅する哲学』(アラン・ド・ボトン著)という本のあとがきに、“21世紀の旅人は不幸だ”と書かれていました。たしかにこれだけメディアが発達すると、どんな絶景であっても既視感がある。生の体験や感動が損なわれているのは事実です。しかし、同じ光景であっても、時代を重ねれば“物語”が増えてくる。その本では、人々の感受性の中にこそ最後の絶景があると言っていました。感受性を動かす物語、ビジュアルだけではないレイヤーを作ることで、旅に新しい価値を生むことができると思うのです」

その考えに至ったのは、とある経験がきっかけだった。

「学生時代に世界で活躍する日本人をインタビューしながら世界一周の旅をする『NOMAD PROJECT』を立ち上げたのですが、その過程でサグラダ・ファミリア教会を修復する主任彫刻師の外尾悦郎さんに建物を案内していただくという幸運に恵まれました。ガウディの物語を聞きながら教会やバルセロナの街並みを見ると、自分の心に灯がともる感覚があった。物語を知ることで、その場所に対する価値観が変わるのです」




マイクロバスを改造した住居兼オフィス。冷蔵庫もトイレも、お風呂もないが、日本の場合は、コンビニエンスストアや銭湯、コインランドリーなどが至る所にあるので、そこを借りながら生活する。いうなれば生活インフラのアウトソーシング化を行うことで、暮らしを成立させている。

この経験から生まれた「ON THE TRIP」は、地図と連動したオーディオガイドアプリだが、通り一遍の情報を伝えるのではなく、熱量や想いがこもった「物語」を伝えることを意識する。平等院や新宿御苑、東京タワーのような文化財、大地の芸術祭などのアート作品を物語で紹介。日本語を含めた4言語に対応しており、テクノロジーを使って文化や伝統を旅人へと伝えるのだ。

そぎ落としつつも、優雅さを楽しむ

現在の成瀬は、改造した大型バンを自宅兼オフィスとして、全国を旅しながら、ノマドライフを実践している。積載できる荷物は限られるため、必要なものしか所有しない。洗濯はコインランドリーを使うので、繊細な生地の衣服やスーツも持たない。生活のすべてがトランクとバックパックに収まるほどに徹底的にそぎ落とす一方で、余剰を楽しむ姿勢も忘れない。



「旅をテーマにしたルイ・ヴィトンの展覧会で見た英国紳士のアフリカへの旅支度に、ティーセットが含まれていました。一見すると無駄にも思えるけれど、ジャングルや砂漠でもティーセットがあれば、自分が大切にしている時間を取り戻すことが出来る。とても優雅で贅沢なことですよね。今の僕にとっての“ティーセット”は、毎日通っているサウナ&温泉セットかな(笑)」

そぎ落とすことでたどり着いた優雅さ。それを時計で表現するのなら、シチズン『エコ・ドライブ ワン』のようなスタイルになるだろう。

シチズンが生み出し、磨いてきた光発電技術エコ・ドライブの集大成として2016年にデビュー。パーツやIC回路の設計から見直すことで、光発電アナログウォッチとしては世界で最も薄い、厚さ2.98㎜という超薄型ウォッチを完成させた。時分針のみの端正なルックスと極限まで研ぎ澄まされたケースのフォルムは、“セカンドスキン”と称されるほどつけ心地が良く、極限の姿でありながら美しい。


ステンレススティール製のケースとブレスレットにデュラテクトDLCを施すことで、耐傷性能が高まり、ブラックの精悍なルックスになった「エコ・ドライブ ワン AR5054-51E」。ベゼル素材はピンク・サーメット。

「大学生のころにスマートフォンが登場し、それ以来持ち物を極限まで減らすことを意識してきました。時計もつけていなかったのですが、自然と近い移動生活を送るようになってからは時間に対する感覚が変化してきました。多くの人は、時間というのは積み上がっていくもので、過去があるから今がある、今までがこれからを作っていくと信じています。しかし僕はそうは思わない。“かこ”は、過ぎ去ったと書きますし、“みらい”は未だ来ないと書く。つまり時間というのは、上流から川が流れてくるようにこれからやってくるもの。だから、これからが今までを作っていくのです」

成瀬は旅先でアイヌ文化に出会い、その思いを強くする。

「アイヌ文化では、彼らは1月、2月という感覚はなく、例えば「鮭がやってくる月」というように考える。彼らも時間が向こうからやってくるものだと考えているのでしょう。だから、意識するのはこれからやってくる、わくわくした未来だけ。過去はどうでもいいのです。こう考えるようになったとき、時計を持つのも良いかなと思い始めました。『エコ・ドライブ ワン』のように、時刻を正確に示すだけでなく、アート的であり、作品として優れているものを身に着けたい。未来からやってくる“時間”を、ワクワク出来るような時計を手に入れたい。最近はそう思います」


ソーラーシステムで発電した電気を二次電池にためて、安定的に時計を動かすことができる実用機構エコ・ドライブを搭載しつつ、ムーブメントの厚みは1.00㎜。ケースの厚みも2.98㎜に収めた驚異の薄型ウォッチ。2針+ノンデイトというそぎ落とされた機構で、端正なデザインを作り上げる。ブラック×ピンクゴールドの配色が、手元を華やかに演出する。「エコ・ドライブ ワン AR5054-51E」クオーツ、SS(デュラテクトDLC)ケース、ケース径39㎜。43万円

「エコ・ドライブ ワン AR5054-51E」詳しくはこちら


時計の未来は、“時を超えた価値”が大切になる

「時計への興味が湧いていますが、それでも時間に対しては自然でありたいとも考える。例えば旅の間は、極力時間は見ません。朝日が昇ったり夕暮れになったりと、自然の中にいれば大まかな時間はわかりますからね。現在は大型バンで生活していますが、夏はバン内部が暑くなるので自然と目が覚めますし、冬は鳥のさえずりで起こされることもある。目覚まし時計は不要ですし、そこには“何時何分”という数値では語れない心地よい時間があります」

時間を感覚的にとらえる。それはシチズンが得意とすることでもある。

そもそもシチズンというブランドの根源には“市民のために常により良い時計を作る”という信念がある。そのためには過去にとらわれず、未来を向いて新しいチャレンジを続ける必要がある。光発電技術のエコ・ドライブや外装素材の表面硬化処理デュラテクト、あるいは標準電波やGPS衛星電波で時刻修正を行う究極の高精度技術は、シチズンの革新性の表れであり未来志向であることの証左でもある。

しかしシチズンはいつだって未来を見る。『ザ・シチズン Caliber0100』は、電波時計などの外部技術に頼らず、時計技術のみで年差±1秒という究極の高精度を実現した時計である。しかしその根底にあるのは、精度とは何か?時間とは何か?という時の本質である。


“純粋な1秒”を表現するために、端正なデザインでまとめたホワイトゴールドケースの「ザ・シチズン Caliber0100」。動きを美しく魅せるため、秒針をすらりと長く設計している。

「どれだけ多忙であっても、1秒という単位で暮らすことはない。そういう点では、年差±1秒という精度は不要かもしれません。しかし人それぞれが感じるエモーショナルな瞬間に、“正確な1秒”という要素が加われば、その思い出はより強く彩られるのかもしれない」

それこそが、『ザ・シチズン Caliber 0100』が表現する、時の本質なのかもしれない

「『エコ・ドライブ ワン』も『ザ・シチズン Caliber0100』も、時間を知るためのツールである以上に、“時間に対する感覚を補正する”ために存在しているように思えます。シチズンは100年以上の歴史を持つ会社ですが、過去を振り返らずに今と未来を大切にしている。寺社の人とよく話すのですが、伝統というのは前衛の積み重ねであり、前を見て進むからこそ、その後ろには道ができるのですから」

未来にワクワクしながら、軽やかにビジネスの世界を歩む成瀬。そこには気負いはない。

「旅では様々なトラブルを経験してきましたから、起業やビジネスに対するプレッシャーはありません」と笑う姿は、本当に好きなこと=旅を伝えるという仕事への充実感が見てとれた。このかけがえのない時間を、共に過ごす時計に遂に出会った。


成瀬勇輝◎ON THE TRIP代表。東京都出身。早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。米国バブソン大学で起業学を学んだ後、NOMAD PROJECTを立ち上げ、世界30カ国をまわり、起業家500人にインタビューしウェブマガジンにて発信。世界中の情報を発信するモバイルメディアTABI LABOを創業し、2017年には「あらゆる旅先を博物館化する」をコンセプトにトラベルオーディオガイド「ON THE TRIP」を立ち上げる。著書に、『自分の仕事をつくる旅』 (ディスカバー21)、『旅の報酬』(いろは出版)がある。


シチズンの創業100周年を記念して生まれた超高精度ムーブメント「Cal.0100」を搭載。通常の256倍の周波数を発するATカット型水晶振動子を使用し、さらには温度変化による振動数の変化に対する補正を行うことで、年差±1秒という超高精度を実現。このピュアな精度に合わせて、デザインは端正にまとめており。ケースのラグ部分やリューズのカットは、クオーツ(水晶)をイメージしたシャープな造形を作った。「ザ・シチズン Caliber0100」クオーツ、18KWGケース、ケース径37.5㎜。世界限定100本。180万円

「ザ・シチズン Caliber0100」詳しくはこちら

Promoted by シチズン text by Tetsuo Shinoda photographs by Yoshinori Eto