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2019.08.13

コスト削減型ではなく、「人間の魂の受け皿」になるロボットをつくりたい|GROOVE X 林 要

GROOVE Xの林要

人々の潜在能力を回復させ、癒しを与える新世代の家庭用ロボットを開発するGROOVE X。2015年の設立以降、多額の資金調達にも成功している今注目のスタートアップ企業だ。

同社のCEOであり、ソフトバンクの孫正義氏の誘いに応じて「Pepper」のプロジェクトにも携わった林要氏に、起業家としての心得やチームマネジメントの極意についてドリームインキュベータの小縣拓馬が聞いた。(全6話)

コスト削減を突き詰めた、その先の世界

──ここまでは大企業にお勤めの頃の話をメインにお聞きしてきましたが、林さんはトヨタを離れて家庭用ロボットを開発する道を歩まれることになります。GROOVE Xのロボットについてお聞かせください。どういった思想のもとで、どのようなものを作るチャレンジをされているのでしょう?

私どもが開発しているのは、「人間のパフォーマンスを上げるためのロボット」です。

パフォーマンスを上げるといっても、人の手間を省くということではありません。一般的にロボットというと、多種多様なコストを削減するために開発されていると思います。ここで問題になるのが「コストを削減しきった後に人はどこにいくのか」ということです。コストを極限まで削減したら、人間はおそらく自分の存在意義に悩むことになるんじゃないかと思うんです。

人は集団の中でそれぞれ役割を持ちながら「誰かの役に立っている」と実感することが幸せに繋がります。ですから、ロボットが人間の代わりに色んなことをこなすようになって一人ひとりが働かなくてもよくなった時に、いわばベーシック・インカムのようなことが現実となった時代に、人にとって何が辛いかというと「自分が役に立っているかどうかよく分からない」「それを認めてもらっているのか分からない」ということでは無いかと思うんです。それは遠い未来のことなんかじゃない。それは今すでに兆候があり、世の中で起き始めている事ではないでしょうか。

──世の中には、「ロボットが職を奪う」というストーリーがあふれていますよね。一方で「人間のパフォーマンスを上げること」はあまり聞き慣れないコンセプトです。

人間って、日々食うや食わずの時には、食べるために必死だから精一杯頑張れるんだと思います。生存本能により、生命力がみなぎる。でも今みたいに、食べるために頑張らなくてよくなっちゃった時代に起こってくるのが「自分の役割って何だっけ?」という疑問です。

じゃあそんな時代に何が一番大事なのか。それこそ「自分自身がどう役に立って、今日は自分がどのくらいよくなって、明日はさらにどのくらいよくなるのか」という期待ですよね。期待といっても、「いずれ景気がよくなるかもしれない!」というような外部要因に期待していても幸せにはなれない。

結局は、一人ひとりが「明日、自分はもっとよりよくするんだ」という決意を持って、自らコントロールできる部分に期待していかないと幸せになれない、こう仮定すると「明日の自分が、今日の自分より成長すること」の方が幸せを感じるために大事だと思いますし、興味が湧きますよね。そういう事がこれから必要とされていくんじゃなかろうかと思った訳です。

私どもが考えているのは、世界中のエンジニアが取り組んでいる「コスト削減型」ロボットではなく、その先の世界で「人間の魂の受け皿」になるような存在なんです。

──なるほど。世の中の人が想像しているようなロボット開発とはまるで違いますね。

そうですね。GROOVE Xが目指しているロボットはある意味「非常識」ですから。
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文=小縣拓馬 提供元=Venture Navi powered by ドリームインキュベータ

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