気が多くてもいい。なぜ、すずかんはタクトを振り続けるのか|鈴木寛 #30UNDER30

鈴木寛


タクトを振るリーダーシップ

指揮者って、自分自身ではなんの音も出しませんよね。しかもオペラの場合は、オーケストラピットの中に入っているのでお客さんから見えないんです。でも実は、音を出すタイミングやテンポ、演出も全て動かしている。自分が目立つことよりも縁の下の力持ちになり、全体のことを考え、お客さんを感動させられたらいいなと思うんです。

今思えば、どんな時でも一人一人が持てる力を発揮してもらいたいという気持ち一心でした。いろんな人がいるから、なかなかまとまらないんですけどね。スタッフと演出家が揉めたりすると、よく間に入ってまとめていました。それぞれの人とゆっくり話し合い、みんなで原点に立ち返る。今やっていることと同じです。

今でも、ゼミなどでリーダーシップ養成のために指揮者の体験をしてもらうことがあります。歌う人や模擬のピアニスト、弦楽アンサンブルを連れてきて、タクトを振ってもらうのです。そうすると、オーケストレーションというのは、意外と難しいということが分かる。自分の指示によって音がずれてしまったり、指示そのものが明確にできなかったり。テンポやリズムなど、自分の中に確固たるイメージがないと振れないんですよね。指揮者って、実は、音を奏でる人よりも半歩先に振っているんです。

20世紀のリーダーシップは「俺についてこい」というマッチョ型でしたが、21世紀はビジョンを示してみんなをまとめるオーケストレーター型だと思います。これが「ソーシャル・オーケストレーション」です。



28歳、シドニーで未知との遭遇

通産省時代の忘れられない経験は、1992年に28歳でシドニー大学の研究員として派遣された時のことです。仕事観やプライベートでも良い意味で大きなカルチャーショックを受けました。

新聞でシェアメイトの募集が目に止まり、海の見える一軒家でオーストラリア人の男女と同居生活をすることになりました。男性はITエンジニアで、女性は製薬会社のマネージャーだった。週末になると友達や恋人が遊びに来て一緒にご飯を食べたり。日本に比べたら、相当先取りしていますよね。

そしてある日、エンジニアの彼は会社をやめて、旅をして1年後にロンドンで働き始めると言うんです。当時の僕にとって終身雇用が当たり前で、仕事がないなんて考えられず、その生き方に衝撃を受けました。いかに日本では固定観念に縛られて生きているのか、と。

僕は実に気が多く、「自分は一体何者なんだろう」と思い悩むこともありました。ある意味、やりたいことは分裂気味で、一つに絞りきれず、どれも中途半端だと感じてしまったことも。だけど、自分のやりたいことが「ソーシャルプロデュース」だと言い切った時、二足、三足、四足のわらじを履いていることが相乗効果になったのです。そう気づいたのは、ちょうどすずかんゼミを始める前のことでした。

やりたいことが見つかっていない人には「旅」をおすすめします。ここでいう旅というのは未知との遭遇です。例えば東京に住んでいるとしましょう。23区すべてに足を運んだことがありますか。東京都民って1300万人いるんですよ。会おうと思えばいろんな人、いろんな場所に出会える。たまたま記事で見たとか、誰かに誘われたとか、そんな小さなご縁に身を委ねてみて、色々つまみ食いをしてみましょう。また次のご縁ができてきますから。


すずき・かん◎1964年生まれ。兵庫県出身。東京大学教授、慶應義塾大学教授、社会創発塾塾長。Teach for All Global Board Member、元・文部科学副大臣、前・文部科学大臣補佐官、日本サッカー協会理事など。1995年夏から通産省勤務をしながら、大学生などを集めた私塾「すずかんゼミ」を主宰し、現在に至る。慶應義塾大学SFC助教を経て2001年参議院議員初当選。12年間国会議員在任中、文部科学副大臣を2期務めた。2012年、一般社団法人社会創発塾を設立し、社会起業家の育成に力を入れる。

鈴木寛が「ポリティクス部門」のアドバイザリーボードとして参加した「30 UNDER 30 JAPAN 2019」の受賞者は、8月23日に特設サイト上で発表。世界を変える30歳未満30人の日本人のインタビューを随時公開する。

昨年受賞者、「スーパーオーガニズム」でボーカルをつとめる野口オロノや、昨年7月にヤフーへの連結子会社化を発表した、レシビ動画「クラシル」を運営するdelyの代表取締役・堀江裕介に続くのは誰だ──

文=督あかり 写真=小田駿一

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